徒然草172|若き時は、血気、内に余り、心、物に動きて、情欲多し・・・
真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
血気盛んで危うい若者と、精神が衰え知恵が勝る老人とを対比し、それぞれの長所と短所を客観的に述べることで、人生の各段階における人間の性質を浮き彫りにしている。
🌙現代語対訳
若い時は、血気が、体内にみなぎり、
若き時は、血気、内に余り、
心が、物事に影響されやすく、欲望も多いのです。
心、物に動きて、情欲多し。
その身体は危うく、壊れやすい点で、
身を危ぶめて、砕けやすきこと、
転がした珠のようです。
珠を走らしむるに似たり。
美しいものを好んで、財産を使い果たし、
美麗を好みて、宝を費し、
それを捨てて、質素な暮らしをしたり。
これを捨てて、苔の袂にやつれ、
勇ましい気持ちが盛んで、人と争ったり、
勇める心盛りにして、ものと争ひ、
心の中では恥じたり嫉妬したり、
心に恥ぢうらやみ、
好きなものが、日によって変わります。
好む所、日々に定まらず。
色恋に溺れ、恋愛を賛美し、
色にふけり、情けにめで、
行動は思い切りよく行って、
行ひをいさぎよくして、
一生を台無しにしたり、命を失ったりするような生き方を望み、
百年の身を誤り、命を失へるためし願はしくして、
自分が無事に長生きすることなど考えもしません。
身の全く久しからんことをば思はず。
好きなことに心を奪われ、後々までの語り草になることもあります。
好ける方に心ひきて、永き世語りともなる。
身を滅ぼしてしまうのは、若い時の行いです。
身を誤つことは、若き時のしわざなり。
年老いた人は、精神力が衰え、
老いぬる人は、精神衰へ、
淡白であっさりしていて、心が大きく動かされることがありません。
淡くおろそかにして、感じ動く所なし。
心が自然と静かなので、無駄な行動はしません。
心おのづから静かなれば、無益のわざをなさず。
身体を大切にして心配事をなくし、
身を助けて愁へなく、
他人に迷惑をかけないようにと考えます。
人のわづらひなからんことを思ふ。
老いて知恵が若い時よりも優れているのは、
老いて智の若き時にまされるは、
若者が体力で老人より優れているのと同じようなものなのです。
若くして、形の老いたるにまされるがごとし。
📚古文全文
若き時は、血気、内に余り、心、物に動きて、情欲多し。身を危ぶめて、砕けやすきこと、珠を走らしむるに似たり。
美麗を好みて、宝を費し、これを捨てて、苔の袂にやつれ、勇める心盛りにして、ものと争ひ、心に恥ぢうらやみ、好む所、日々に定まらず。色にふけり、情けにめで、行ひをいさぎよくして、百年の身を誤り、命を失へるためし願はしくして、身の全く久しからんことをば思はず。好ける方に心ひきて、永き世語りともなる。身を誤つことは、若き時のしわざなり。
老いぬる人は、精神衰へ、淡くおろそかにして、感じ動く所なし。心おのづから静かなれば、無益のわざをなさず。身を助けて愁へなく、人のわづらひなからんことを思ふ。老いて智の若き時にまされるは、若くして、形の老いたるにまされるがごとし。