真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
人生の終盤、世俗の義理や評判を捨て、残された時間を本当に大切なことに使いたいという兼好法師の決意。

🌙現代語対訳
明日は遠い地方へ赴くと聞いている人に対して、
明すは遠国へ赴くべしと聞かん人に、
心を落ち着けてやらなければならない仕事を、
心閑かになすべからんわざをば、
頼みに行く人がいるでしょうか。
人言ひかけてんや。
急な重要案件を抱えていたり、深い悲しみに沈んでいる人は、
にはかの大事をも営み、切に歎くこともある人は、
他のことなど耳に入らず、他人の喜びや悲しみを気にかけません。
他のことを聞き入れず、人の愁へ喜びをも問はず。
周りを気にかけなかったからといって、「なんでだ」と恨む人もいません。
問はずとて、「などや」と恨むる人もなし。
だとすれば、だんだん年をとり、病気がちになり、
さらば、年もやうやうたけ、病にもまつはれ、
ましてや、俗世を捨てた人も、またこれらと同じはずだ。
いはんや、世をも遁れたらん人、またこれに同じかるべし。
世の中のしきたりのうち、どれか辞めにくいものがあるだろうか。
人間の儀式、いづれの事か、去りがたからぬ。
世間体を気にして断りきれず、絶対に必要だと思うと、
世俗の黙しがたきにしたがひて、これを必ずとせば、
やらなければならない事が増え、体力も消耗し、心の安らぎも失われ、
願ひも多く、身も苦しく、心の暇もなく、
一生、雑用に振り回されて、空しく終わってしまいます。
一生は雑事の小節に障へられて、むなしく暮れなん。
日は暮れて道遠し。私の人生は、これまでもつまずいてばかりです。
日暮れ塗遠し。わが生、すでに蹉跎たり。
あらゆる世俗のしがらみを捨て去るべき時です。
諸縁を放下すべき時なり。
信義も守りません。礼儀も気にかけません。
信をも守らじ。礼儀をも思はじ。
この気持ちを理解できない人は、気違いとでも言いなさい。
この心をも得ざらん人は、物狂ひとも言へ。
現実離れしている、人情がないとでも思いなさい。
うつつなし、情なしとも思へ。
非難されても苦にはしません。
毀るとも苦しまじ。
褒められたとしても聞き入れるつもりはありません。
誉むとも聞き入れじ。
📚古文全文
明すは遠国へ赴くべしと聞かん人に、心閑かになすべからんわざをば、人言ひかけてんや。
にはかの大事をも営み、切に歎くこともある人は、他のことを聞き入れず、人の愁へ喜びをも問はず。問はずとて、「などや」と恨むる人もなし。さらば、年もやうやうたけ、病にもまつはれ、いはんや、世をも遁れたらん人、またこれに同じかるべし。
人間の儀式、いづれの事か、去りがたからぬ。世俗の黙しがたきにしたがひて、これを必ずとせば、願ひも多く、身も苦しく、心の暇もなく、一生は雑事の小節に障へられて、むなしく暮れなん。
日暮れ塗遠し。わが生、すでに蹉跎たり。諸縁を放下すべき時なり。信をも守らじ。礼儀をも思はじ。
この心をも得ざらん人は、物狂ひとも言へ。うつつなし、情なしとも思へ。毀るとも苦しまじ。誉むとも聞き入れじ。