徒然草059|大事を思ひ立たん人は、去りがたく心にかからんことの本意を遂げずして・・・
真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
ポイント
何か大事を決意したなら、心残りの用事を捨てて即座に行動すべきだ。先延ばしにしていては、実行の日は永遠に来ない。

🌙現代語対訳
重大なことを決心した人は、
大事を思ひ立たん人は、
たとえ心残りで捨てがたいことがあったとしても、その目的を遂げずに、
去りがたく心にかからんことの本意を遂げずして、
そのまま捨てるべきです。
さながら捨つべきなり。
「もう少しだけ、このことが終わったら」
「しばし、このこと果てて」、
「どうせなら、あの件も片付けてから」
「同じくは、かのこと沙汰しおきて」、
「こんな状態だったら、世間の笑いものになるだろう。
「しかしかのこと、人の嘲りやあらん。
将来に問題がないように、準備をしてから」
行く末難なくしたためまうけて」、
「長年やってきたことだから、もう少し待とう。
「年ごろもあればこそあれ、そのこと待たん。
大して時間はかからないだろう。騒ぎにならないように」
ほどあらじ。物騒がしからぬやうに」
などと考えていると、辞めるに辞められないことがますます増えて、
など思はんには、えさらぬことのみいとど重なりて、
物事が片付くことは永遠になく、決心できる日など来ません。
ことの尽くる限りもなく、思ひ立つ日もあるべからず。
だいたい、世の中の人々を見ると、少しは物事の道理をわきまえている人は、
おほやう、人を見るに、少し心ある際は、
皆このような経緯で、一生を終えるようです。
みなこのあらましにてぞ、一期は過ぐめる。
すぐそこの火事で逃げる人が、「ちょっと待って」と言うでしょうか。
近き火などに逃ぐる人は、「しばし」とやいふ。
自分の身を助けようと思えば、恥も外聞も気にせず、
身を助けんとすれば、恥をもかへり見ず、
財産も捨てて、逃げるはずです。
財をも捨てて、逃れ去るぞかし。
人の命は待ってはくれないのです。
命は人を待つものかは。
死(無常)が訪れるのは、
無常の来たることは、
火や水が襲ってくるよりも速く、決して逃れることはできません。
水火の攻むるよりも速に逃れがたきものを、
その時になって、年老いた親、幼い子供、主君から受けた恩が、
その時、老いたる親・いときなき子・君の恩・
あの人との情愛、など、捨てられないと言って、本当に捨てないでしょうか。
人の情け、捨てがたしとて、捨てざらんや。
📚古文全文
大事を思ひ立たん人は、去りがたく心にかからんことの本意を遂げずして、さながら捨つべきなり。
「しばし、このこと果てて」、「同じくは、かのこと沙汰しおきて」、「しかしかのこと、人の嘲りやあらん。行く末難なくしたためまうけて」、「年ごろもあればこそあれ、そのこと待たん。ほどあらじ。物騒がしからぬやうに」など思はんには、えさらぬことのみいとど重なりて、ことの尽くる限りもなく、思ひ立つ日もあるべからず。
おほやう、人を見るに、少し心ある際は、みなこのあらましにてぞ、一期は過ぐめる。
近き火などに逃ぐる人は、「しばし」とやいふ。身を助けんとすれば、恥をもかへり見ず、財をも捨てて、逃れ去るぞかし。命は人を待つものかは。
無常の来たることは、水火の攻むるよりも速に逃れがたきものを、その時、老いたる親・いときなき子・君の恩・人の情け、捨てがたしとて、捨てざらんや。