真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
作者が幼い頃、「最初の仏は誰に教わったのか」と父に問い、答えに詰まらせた。父はそのやりとりを面白がって人に語ったという。
【終】徒然草はこの段で終わりです。

🌙現代語対訳
数え年で八歳になった年、父に尋ねました。
八つになりし年、父に問ひていはく、
「仏様とは、どのようなものでしょうか」と。
「仏はいかなるものにか候ふらん」と言ふ。
すると父はいいました、「仏は、人がなったものだよ」と。
父がいはく、「仏には、人の成りたるなり」と。
私がさらに聞きました、「人はどうやって仏になるのですか」と、
また問ふ、「人は何として仏には成り候ふやらん」と。
父は、また、「仏様の教えによって、仏になるのだ」と答えました。
父、また、「仏の教へによりて成るなり」と答ふ。
私がまた聞きました。「その教えを説かれた仏様は、何に教わったのですか」と、
また問ふ、「教へ候ひける仏をば、何が教へ候ひける」と。
父はまた答え、
また答ふ、
「その仏様もまた、その前の仏様の教えによっておなりになったのだ」と。
「それもまた、先の仏の教へによりて成り給ふなり」と。
また聞きました。「では、その教えを一番初めに説かれた仏様は、
また問ふ、「その教へ始め候ひける第一の仏は、
どのような仏様だったのでしょうか」というと、父は、
いかなる仏にか候ひける」と言ふ時、父、
「空からでも降っのか。地面からでも湧いたのか」と言って笑いました。
「空よりや降りけん。土よりや湧きけん」と言ひて笑ふ。
「問い詰められて、答えられなくなってしまった」と、
「問ひつめられて、え答へずなり侍りつ」と、
人々に話しては、面白がっていました。
諸人に語りて興じき。
📚古文全文
八つになりし年、父に問ひていはく、「仏はいかなるものにか候ふらん」と言ふ。父がいはく、「仏には、人の成りたるなり」と。また問ふ、「人は何として仏には成り候ふやらん」と。父、また、「仏の教へによりて成るなり」と答ふ。また問ふ、「教へ候ひける仏をば、何が教へ候ひける」と。また答ふ、「それもまた、先の仏の教へによりて成り給ふなり」と。また問ふ、「その教へ始め候ひける第一の仏は、いかなる仏にか候ひける」と言ふ時、父、「空よりや降りけん。土よりや湧きけん」と言ひて笑ふ。
「問ひつめられて、え答へずなり侍りつ」と、諸人に語りて興じき。