真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
専門家が他分野で知をひけらかし争うのは醜い。人より優れているという慢心は災いを招き、真の達人は決して誇らないと説く。

🌙現代語対訳
ある分野に携わっている人が、
一道にたづさはる人、
自分の専門ではない集まりに参加したときに、
あらぬ道の筵にのぞみて、
「ああ、これが私の専門分野であったなら、
「あはれ、わが道ならましかば、
こんな風にただ見ているだけにはしないものを」と言ったり、
かくよそに見侍らじものを」と言ひ、
心の中で思ったりすることは、よくあることですが、
心にも思へること、常のことなれど、
たいへん感じが悪いものです。
よに悪く思ゆるなり。
知らない分野のことがうらやましいと思うのなら、
知らぬ道のうらやましく思えば、
「ああ、素晴らしい。どうして習わなかったのだ」と言っていればいいでしょう。
「あなうらやまし。などか習はざりけん」と言ひてありなん。
自分の知識をひけらかして、人と競おうとするのは、
わが智を取り出でて、人に争ふは、
角のある獣が角を振りかざし、
角ある物の角を傾け、
牙のある獣が牙をむき出して威嚇するようなものです。
牙ある物の牙を噛み出だすたぐひなり。
人としては、良い点を誇らず、
人としては善に誇らず、
人と争わないのが良いです。
ものと争はざるを徳とす。
他人より優れた点があるのは、大きな欠点です。
他にまさることのあるは、大きなる失なり。
家柄の良さ、才能や技術が優れていること、
品の高さにても、才芸の優れたるにても、
祖先の名誉などであれ、
先祖の誉れにても、
「人より優れている」と思っている人は、
「人にまされり」と思へる人は、
たとえ口には出さなくても、
たとひ言葉に出でてこそ言はねども、
心の中に大きな過ちを抱えています。
内心にそこばくの咎あり。
慎んで、忘れなければなりません。
慎みて、これを忘るべし。
愚かに見え、人から悪く言われ、
をこにも見え、人にも言ひ消たれ、
災難まで招くのは、すべてこの慢心からです。
禍ひをも招くは、ただこの慢心なり。
一つの道を本当に極めた人物は、
一道にもまことに長じぬる人は、
自分ではっきりとこの欠点を理解しているので、
みづから明らかにこの非をしるゆゑに、
向上心は、常に満たされることがなく、
志、常に満たずして、
決して物事を自慢したりはしないのです。
つひに物に誇ることなし。
📚古文全文
一道にたづさはる人、あらぬ道の筵にのぞみて、「あはれ、わが道ならましかば、かくよそに見侍らじものを」と言ひ、心にも思へること、常のことなれど、よに悪く思ゆるなり。
知らぬ道のうらやましく思えば、「あなうらやまし。などか習はざりけん」と言ひてありなん。わが智を取り出でて、人に争ふは、角ある物の角を傾け、牙ある物の牙を噛み出だすたぐひなり。
人としては善に誇らず、ものと争はざるを徳とす。他にまさることのあるは、大きなる失なり。品の高さにても、才芸の優れたるにても、先祖の誉れにても、「人にまされり」と思へる人は、たとひ言葉に出でてこそ言はねども、内心にそこばくの咎あり。慎みて、これを忘るべし。をこにも見え、人にも言ひ消たれ、禍ひをも招くは、ただこの慢心なり。
一道にもまことに長じぬる人は、みづから明らかにこの非をしるゆゑに、志、常に満たずして、つひに物に誇ることなし。