古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草240|しのぶの浦の蜑の見るめも所せく、くらぶの山も守る人しげからんに・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

障害の多い恋こそ趣深く、親の認めた恋や見合いは味気ない。不釣り合いな恋は不幸なので、風流を解さぬ相手なら恋はしない方が良い。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

人目を忍ぶ「信夫の浦」で、海松布(みるめ)という海藻を採る海人のように、人の見る目が多くて、自由に会えず、

しのぶのうらあまるめもところせく、

暗い「くらぶの山」も見守る人が多いのに、

くらぶのやまひとしげからんに、

無理にでも通おうとする恋心こそ、浅いものではなく、

わりなくかよはんこころいろこそ、あさからず、

心に染みる忘れがたい、思い出も多くなることでしょう。

あはれとおもふふしぶしの、わすれがたきこともおほからめ。

親や兄弟が認めて、何の波乱もなく迎え入れるような恋は、

おやはらからゆるして、ひたぶるにむかゑたらん、

まぶしすぎてきまりが悪いしょう。

いとまばゆかりぬべし。

 

世の中で落ちぶれてしまった女性が、

にありわぶるおんなの、

不似合いな年老いた法師や、無骨な田舎者であっても、

げなき老法師おいほうし、あやしの吾妻人あづまびとなりとも、

暮らしが豊かだからといって、「誘ってくれるなら…」などと言うのを、

にぎははしきにつきて、「さそふみづあらば」などふを、

仲人が、両方にとって魅力的に聞こえるように取り持って、

仲人なかうど、いづかたもこころにくきさまにひなして、

お互い知らない人を、迎えて来てしまうのは味気ないことです。

られずらぬひとを、むかへもてたらんあいなさよ。

どんな言葉を交わすというのでしょうか。

なにごとをかうちづることにせん。

過ごした年月のつらさや、筑波山の歌のように乗り越えてきた思い出を語り合えることこそ、

年月としつきのつらさをも、「葉山はやまの」などもあひかたらはんこそ、

尽きることのない会話の種になるというのに。

きせぬことにてもあらめ。

 

だいたい、他人が取り持った縁談は、

すべて余所よそひとりまかなひたらん、

なんとも、気に入らないことが多いものです。

うたて、こころづきなきことおほかるべし。

素晴らしい女性であっても、

よきおんなならんにつけても、

身分が低く、見栄えもせず、年取っている男は、

しなくだり、にくく、としけなんをとこは、

「あんなつまらない男のために、惜しい女を無駄に

「かくあやしきのために、あたらをいたづらに

しなくてもいいのに」と、彼女も軽蔑され、

なさんやは」と、ひと心劣こころおとりせられ、

本人は夫と向かい合っていても、自分の姿を恥ずかしく思うことでしょう。

わがむかたらんも、かげはづづかしくおぼえなん。

本当につまらないことです。

いとこそあいなからめ。

 

梅の花が香るおぼろ月夜に佇むことや、

うめはなかうばしき朧月おぼろづきにたたずみ、

生垣の草原の露をかき分けて出ていくような夜明けの空が、

御垣みかきはらつゆでん在明ありあけそらも、

自分にふさわしいと感じられないような人は、

わがさまにしのばるべくもなからんひとは、

初めから色恋沙汰などしないほうがいいです。

ただいろこのまざらんにはしかじ。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

📚古文全文

しのぶのうらあまるめもところせく、くらぶのやまひとしげからんに、わりなくかよはんこころいろこそ、あさからず、あはれとおもふふしぶしの、わすれがたきこともおほからめ。おやはらからゆるして、ひたぶるにむかゑたらん、いとまばゆかりぬべし。
にありわぶるおんなの、げなき老法師おいほうし、あやしの吾妻人あづまびとなりとも、にぎははしきにつきて、「さそふみづあらば」などふを、仲人なかうど、いづかたもこころにくきさまにひなして、られずらぬひとを、むかへもてたらんあいなさよ。なにごとをかうちづることにせん。年月としつきのつらさをも、「葉山はやまの」などもあひかたらはんこそ、きせぬことにてもあらめ。
すべて余所よそひとりまかなひたらん、うたて、こころづきなきことおほかるべし。よきおんなならんにつけても、しなくだり、にくく、としけなんをとこは、「かくあやしきのために、あたらをいたづらになさんやは」と、ひと心劣こころおとりせられ、わがむかたらんも、かげはづづかしくおぼえなん。いとこそあいなからめ。
うめはなかうばしき朧月おぼろづきにたたずみ、御垣みかきはらつゆでん在明ありあけそらも、わがさまにしのばるべくもなからんひとは、ただいろこのまざらんにはしかじ。