古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草241|望月の円かなることは、しばらくも住せず、やがて欠けぬ。心とどめぬ人は・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

人生は満月のように儚い。俗世の願いは後回しにせず、ただちに万事を捨て仏道に励むべきだという人生の教訓。

🌙現代語対訳

満月の円い状態は、束の間もとどまることなく、

望月もちづきまどかなることは、しばらくもぢゆうせず、

すぐに欠け始めます。

やがてけぬ。

よく注意していない人には、たった一晩のうちに、

こころとどめぬひとは、一夜ひとようちに、

それほど形が変わるようには見えないかもしれません。

さまでかはるさまもえぬにやあらん。

 

病気が重くなるのも、停滞することなく、死期は近づいています。

やまひおもるも、ぢゆうするひまなくして、死期しごすでにちかし。

それなのに、まだ深刻でなく、死に直面していない間は、

されども、いまだやまひきふならず、におもむかざるほどは、

世の中が変わらず平穏な生活が続くという考え方に慣れ親しんで、

常住平生じやうじゆうへいぜいねんならひて、

「人生で多くのことを成し遂げた後で、静かに仏の道を修行しよう」

しやうなかおほくのことをじやうじてのちしづかにみちしゆせん」

と思っています。しかし、

おもふほどに、

病気になって死が迫った時、願いは何一つ成就していません。

やまひけて死門しもんにのぞむとき所願しよぐわん一事いちじじやうぜず。

どうしようもなく、長年の怠惰を後悔して、

いふかひなくて、年月としつき懈怠けだいいて、

「今回、もし病気が治って命が助かったなら、

「このたび、もちちなほりていのちまたくせば、

昼も夜も惜しんで、あれもこれも、

よるにつぎて、このこと、かのこと、

怠ることなく成し遂げよう」と願を立てるでしょうが、

おこたらずじやうじてん」とねがひをおこすらめど、

やがて病は重くなり、我を忘れて、混乱したまま死にます。

やがておもりぬれば、われにもあらず、みだしててぬ。

このような例ばかりでしょう。

このたぐひのみこそあらめ。

このことを、人々は何よりも急いで心に留めておくべきです。

このこと、まづ人々ひとびといそこころくべし。

 

やりたい事をすべてやった後で、時間ができてから、仏道に入ろうと思っても、

所願しよぐわんじやうじてのちいとまありて、みちむかはんとせば、

やりたい事が尽きることはありません。

所願しよぐわんくべからず。

幻のようなこの人生で、何を成し遂げられるというのでしょうか。

如幻によげんしやうなかに、何事なにごとをかなさん。

結局、やりたい事はすべて妄想です。

すべて、所願しよぐわんみな妄想まうざうなり。

「心に願いが浮かんだら、それは迷いの心が乱れているのだ」と悟って、

所願しよぐわんこころたらば、妄心迷乱まうしんめいらんす」とりて、

一つとして実行してはなりません。

一事いちじをもなすべからず。

ただちに万事を捨て去って仏道に向かう時、

ただちに万事ばんじ放下はうげしてみちむかとき

妨げもなく、余計な活動もなくなり、

さはりなく、所作しよさなくて、

心も体も永く閑かになります。

心身しんしんながくしづかなり。

📚古文全文

望月もちづきまどかなることは、しばらくもぢゆうせず、やがてけぬ。こころとどめぬひとは、一夜ひとようちに、さまでかはるさまもえぬにやあらん。
やまひおもるも、ぢゆうするひまなくして、死期しごすでにちかし。されども、いまだやまひきふならず、におもむかざるほどは、常住平生じやうじゆうへいぜいねんならひて、「しやうなかおほくのことをじやうじてのちしづかにみちしゆせん」とおもふほどに、やまひけて死門しもんにのぞむとき所願しよぐわん一事いちじじやうぜず。いふかひなくて、年月としつき懈怠けだいいて、「このたび、もちちなほりていのちまたくせば、よるにつぎて、このこと、かのこと、おこたらずじやうじてん」とねがひをおこすらめど、やがておもりぬれば、われにもあらず、みだしててぬ。このたぐひのみこそあらめ。このこと、まづ人々ひとびといそこころくべし。
所願しよぐわんじやうじてのちいとまありて、みちむかはんとせば、所願しよぐわんくべからず。如幻によげんしやうなかに、何事なにごとをかなさん。すべて、所願しよぐわんみな妄想まうざうなり。「所願しよぐわんこころたらば、妄心迷乱まうしんめいらんす」とりて、一事いちじをもなすべからず。ただちに万事ばんじ放下はうげしてみちむかとき、さはりなく、所作しよさなくて、心身しんしんながくしづかなり。