真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
仁和寺の僧侶が寺に仕える少年を喜ばせるため、弁当を隠して祈り出す芝居を打つが、盗まれて失敗。凝りすぎる計画はかえってうまくいかないという教訓。
女人禁制で美少年は大人気

🌙現代語対訳
仁和寺の御所に、大変に美しい少年がいたので、
御室に、いみじき児のありけるを、
「どうにか誘い出して一緒に遊びたい」と、企む僧侶たちがいて、
「いかで誘ひ出だして遊ばん」と、たくむ法師どもありて、
遊び上手な芸能担当の僧たちと相談し、
能ある遊び法師どもなどかたらひて、
しゃれた弁当箱のような物を、丁寧に作って、
風流の破子やうの物、ねんごろにいとなみ出でて、
それを箱のような物に入れ、
箱風情の物にしたため入れて、
近くにある「双の岡」の都合がいい場所に埋めておき、
双の岡の便よき所に埋み置きて、
もみじを散らすなど、誰も思いつかないような演出をしてから、
紅葉散らしかけなど、思ひよらぬさまにして、
御所(仁和寺)へ行って、少年を誘い出すことに成功した。
御所へ参りて、児をそそのかし出でにけり。
「うまくいった」と思い、あちこち遊びまわって、
「うれし」と思ひて。ここかしこ遊びめぐりて、
箱を埋めたあたりの苔の敷物に並んで座り、「すっかり疲れましたなあ。
ありつる苔のむしろに並み居て、「いたうこそごうじにたれ。
ああ、紅葉で焚火をしてくれる人はいないものか。
あはれ、紅葉を焚かん人もがな。
霊験あらたかなお坊さん方、祈ってみてくださいよ」などと言い合い、
験あらん僧達、祈りこころみられよ」など言ひしろひて、
埋めた木の根元に向かい、数珠を押し揉み、
埋めつる木のもとに向きて、数珠押し擦り、
大げさに印を結んだりして、もったいぶって、
印ことごとしく結び出でなどして、いらなくふるまひて、
木の葉をかき分けたが、全く何も見えない。
木の葉をかきのけたれど、つやつや物も見えず。
「場所を間違えたか」と、
「所の違ひたるにや」とて、
掘っていない所もなく山を探し回ったが、なかった。
掘らぬ所もなく山をあされども、なかりけり。
弁当を埋めたのを、誰かが見ておいて、
埋みけるを、人の見おきて、
御所へ行っている間に盗んでしまったのだった。
御所へ参りたる間に盗めるなりけり。
僧たちは、言葉もなく、見苦しく言い争い、
法師ども、言の葉なくて、聞きにくく諍ひ、
腹を立てて帰っていった。
腹立ちて帰りにけり。
あまりに面白くしようと凝りすぎることは、
あまりに興あらんとすることは、
必ずつまらないものになる。
必ずあいなきものなり。
📚古文全文
御室に、いみじき児のありけるを、「いかで誘ひ出だして遊ばん」と、たくむ法師どもありて、能ある遊び法師どもなどかたらひて、風流の破子やうの物、ねんごろにいとなみ出でて、箱風情の物にしたため入れて、双の岡の便よき所に埋み置きて、紅葉散らしかけなど、思ひよらぬさまにして、御所へ参りて、児をそそのかし出にけり。
「うれし」と思ひて。ここかしこ遊びめぐりて、ありつる苔のむしろに並み居て、「いたうこそごうじにたれ。あはれ、紅葉を焚かん人もがな。験あらん僧達、祈りこころみられよ」など言ひしろひて、埋めつる木のもとに向きて、数珠押し擦り、印ことごとしく結び出でなどして、いらなくふるまひて、木の葉をかきのけたれど、つやつや物も見えず。「所の違ひたるにや」とて、掘らぬ所もなく山をあされども、なかりけり。
埋みけるを、人の見おきて、御所へ参りたる間に盗めるなりけり。法師ども、言の葉なくて、聞きにくく諍ひ、腹立ちて帰りにけり。
あまりに興あらんとすることは、必ずあいなきものなり。