古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草054|御室に、いみじき児のありけるを・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

仁和寺の僧侶が寺に仕える少年を喜ばせるため、弁当を隠して祈り出す芝居を打つが、盗まれて失敗。凝りすぎる計画はかえってうまくいかないという教訓。

女人禁制で美少年は大人気

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

仁和寺の御所に、大変に美しい少年がいたので、

御室おむろに、いみじきちごのありけるを、

「どうにか誘い出して一緒に遊びたい」と、企む僧侶たちがいて、

「いかでさそだしてあそばん」と、たくむ法師ほうしどもありて、

遊び上手な芸能担当の僧たちと相談し、

のうあるあそ法師ほうしどもなどかたらひて、

しゃれた弁当箱のような物を、丁寧に作って、

風流ふうりゅう破子わりごやうのもの、ねんごろにいとなみでて、

それを箱のような物に入れ、

箱風情はこふぜいものにしたためれて、

近くにある「双の岡」の都合がいい場所に埋めておき、

ならびおか便びんよきところうづきて、

もみじを散らすなど、誰も思いつかないような演出をしてから、

紅葉もみじらしかけなど、おもひよらぬさまにして、

御所(仁和寺)へ行って、少年を誘い出すことに成功した。

御所ごしょまいりて、ちごをそそのかしでにけり。

「うまくいった」と思い、あちこち遊びまわって、

「うれし」とおもひて。ここかしこあそびめぐりて、

箱を埋めたあたりの苔の敷物に並んで座り、「すっかり疲れましたなあ。

ありつるこけのむしろにて、「いたうこそごうじにたれ。

ああ、紅葉で焚火をしてくれる人はいないものか。

あはれ、紅葉もみじかんひともがな。

霊験あらたかなお坊さん方、祈ってみてくださいよ」などと言い合い、

げんあらん僧達そうだちいのりこころみられよ」などひしろひて、

埋めた木の根元に向かい、数珠を押し揉み、

うづめつるのもとにきて、数珠ずずり、

大げさに印を結んだりして、もったいぶって、

いんことごとしくむすでなどして、いらなくふるまひて、

木の葉をかき分けたが、全く何も見えない。

をかきのけたれど、つやつやものえず。

「場所を間違えたか」と、

ところたがひたるにや」とて、

掘っていない所もなく山を探し回ったが、なかった。

らぬところもなくやまをあされども、なかりけり。

弁当を埋めたのを、誰かが見ておいて、

うづみけるを、ひとおきて、

御所へ行っている間に盗んでしまったのだった。

御所ごしょまいりたるぬすめるなりけり。

僧たちは、言葉もなく、見苦しく言い争い、

法師ほうしども、ことなくて、きにくくいさかひ、

腹を立てて帰っていった。

腹立はらだちてかへりにけり。

あまりに面白くしようと凝りすぎることは、

あまりにきょうあらんとすることは、

必ずつまらないものになる。

かならずあいなきものなり。

📚古文全文

御室おむろに、いみじきちごのありけるを、「いかでさそだしてあそばん」と、たくむ法師ほうしどもありて、のうあるあそ法師ほうしどもなどかたらひて、風流ふうりゅう破子わりごやうのもの、ねんごろにいとなみでて、箱風情はこふぜいものにしたためれて、ならびおか便びんよきところうづきて、紅葉もみじらしかけなど、おもひよらぬさまにして、御所ごしょまいりて、ちごをそそのかしにけり。

「うれし」とおもひて。ここかしこあそびめぐりて、ありつるこけのむしろにて、「いたうこそごうじにたれ。あはれ、紅葉もみじかんひともがな。げんあらん僧達そうだちいのりこころみられよ」などひしろひて、うづめつるのもとにきて、数珠ずずり、いんことごとしくむすでなどして、いらなくふるまひて、をかきのけたれど、つやつやものえず。「ところたがひたるにや」とて、らぬところもなくやまをあされども、なかりけり。


うづみけるを、ひとおきて、御所ごしょまいりたるぬすめるなりけり。法師ほうしども、ことなくて、きにくくいさかひ、腹立はらだちてかへりにけり。

あまりにきょうあらんとすることは、かならずあいなきものなり。