真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
ポイント
人は専門外の事を好むが見苦しい。自分の本分を尽くすべきで、特に武芸は武士以外の者が好むべき道ではない。

🌙現代語対訳
人は誰でも、自分の役割から離れたことばかりを好むようです。
人ごとに、わが身にうときことをのみぞ好める。
僧侶は武芸に励み、武士は弓の引き方も知らず、
法師は兵の道を立て、夷は弓引くすべ知らず、
仏法を分かった顔をし、連歌や管弦を楽しんでいます。
仏法知りたる気色し、連歌し、管絃をたしなみあへり。
しかし、自分の本分に未熟であることよりも、
されど、おろかなるおのれが道よりは、
かえって人から軽蔑されるに違いありません。
なほ人に思ひ侮られぬべし。
僧侶に限らず、上級貴族や殿上人など、
法師のみにもあらず、上達部・殿上人、
上流階級まで、武芸を好む人は多いのです。
かみざままでおしなべて、武を好む人多かり。
百回戦って百回勝っても、武勇の名を確立するのは難しいのです。
なぜなら、運良く敵を破った時、それを勇者でないと言う人はいないからです。
そのゆゑは、運に乗じてあたを砕く時、勇者にあらずといふ人なし。
兵が尽き、矢も尽きても、決して敵に降伏せず、
兵尽き、矢きはまりて、つひに敵に降らず。
死を軽んじてこそ、初めて名が上がる道なのです。
死をやすくして後、始めて名をあらはすべき道なり。
生きているうちは武勇を誇るべきではありません。
生けらんほどは武に誇るべからず。
人の道から遠く、獣に近い行いは、その家柄でもない者が、
人倫に遠く、禽獣に近きふるまひ、その家にあらずは、
好んでも無益なことです。
好みて益なきことなり。
📚古文全文
人ごとに、わが身にうときことをのみぞ好める。法師は兵の道を立て、夷は弓引くすべ知らず、仏法知りたる気色し、連歌し、管絃をたしなみあへり。されど、おろかなるおのれが道よりは、なほ人に思ひ侮られぬべし。
法師のみにもあらず、上達部・殿上人、かみざままでおしなべて、武を好む人多かり。百度戦ひて百度勝つとも、いまだ武勇の名を定めがたし。そのゆゑは、運に乗じてあたを砕く時、勇者にあらずといふ人なし。兵尽き、矢きはまりて、つひに敵に降らず。死をやすくして後、始めて名をあらはすべき道なり。生けらんほどは武に誇るべからず。
人倫に遠く、禽獣に近きふるまひ、その家にあらずは、好みて益なきことなり。