真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
知識をひけらかす若者を例に、人は無知無能を装うべきで、特に若者は些細な言動で評価が左右されると説く。

🌙現代語対訳
人は誰でも、無知無能になるべきものです。
すべて人は無智無能なるべきものなり。
ある人の息子で、見た目などは悪くない若者がいたが、
ある人の子の、見ざまなど悪しからぬが、
父親の前で、人と話している時に、歴史書の一節を引用してみせました。
父の前にて、人と物言ふとて、史書の文を引きたりし。
「利口そうには聞こえるが、目上の方の前では、
「さかしくは聞こえしかども、尊者の前にては、
しなくても良いのに」と思ったものです。
さらずとも」と思えしなり。

また、ある人の家で、「琵琶法師の物語を聞こう」ということになり、
また、ある人のもとにて、「琵琶法師の物語を聞かん」とて。
琵琶法師を呼んだところ、その琵琶の柱が一つ取れてしまっていたので、
琵琶を召し寄せたるに、柱の一つ落ちたりしかば、
「作って付けなさい」と誰かが言うと、
「作りて付けよ」と言ふに、
そこにいた男の中から、身なりの良い男が、
ある男の中に、あしからずと見ゆるが、
「古い柄杓の柄はありませんか」などと言うのを見ると、
「古き柄杓の柄ありや」など言ふを見れば、
爪を伸ばしていました。琵琶などを弾くのでしょう。
爪を生ふしたり。琵琶など弾くにこそ。
盲目の法師の琵琶のことで、よけいな口出しをすべきではありません。
盲法師の琵琶、その沙汰にも及ばぬことなり。
「この道に心得がある、とでも言いたいのか」と、恥ずかしくなりました。
「道に心得たるよしにや」と、かたはらいたかりき。
「柄杓の柄は檜の類で、良くない材料です」
「柄杓の柄は、檜物木とかや言ひて、よからぬ物に」
と別の人が言っていました。
とぞ、ある人仰せられし。
若い人は、本当に些細なことで、良くも見えるし、悪くも見えてしまうものです。
若き人は、少しのことも、よく見え、悪く見ゆるなり。
📚古文全文
すべて人は無智無能なるべきものなり。
ある人の子の、見ざまなど悪しからぬが、父の前にて、人と物言ふとて、史書の文を引きたりし。「さかしくは聞こえしかども、尊者の前にては、さらずとも」と思えしなり。
また、ある人のもとにて、「琵琶法師の物語を聞かん」とて。琵琶を召し寄せたるに、柱の一つ落ちたりしかば、「作りて付けよ」と言ふに、ある男の中に、あしからずと見ゆるが、「古き柄杓の柄ありや」など言ふを見れば、爪を生ふしたり。琵琶など弾くにこそ。盲法師の琵琶、その沙汰にも及ばぬことなり。「道に心得たるよしにや」と、かたはらいたかりき。「柄杓の柄は、檜物木とかや言ひて、よからぬ物に」とぞ、ある人仰せられし。
若き人は、少しのことも、よく見え、悪く見ゆるなり。