古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草053|これも仁和寺の法師、童の法師にならんとする名残とて・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

仁和寺の僧侶が宴会の余興で鼎(かなえ、三本脚の儀式用の青銅器)を頭にかぶり、抜けなくなって大騒動に。周りを巻き込み、無理やり抜いて大怪我を負うという滑稽な失敗談。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

これも仁和寺の僧侶の話です。寺に仕える少年が正式な僧侶になるので別れを惜しんで、

これも仁和寺にんなじ法師ほうしわらは法師ほうしにならんとする名残なごりとて、

みんなで遊ぶことがありましたが、

おのおのあそぶことありけるに、

ある僧侶が酔って、面白がるあまり、

ひて、きょうるあまり、

そばにあった三本足の鼎(かなえ、三本脚の儀式用の青銅器)を手に取り、頭にかぶったところ、

かたはらなる足鼎あしがなへりて、かしらにかづきたれば、

きつかったが鼻を押しつぶして

つまるやうにするを、はなひらめて、

顔をねじ込み、踊り出してみせると、

かほをさしれてでたるに、

一同は、この上なく大喜びしました。

満座まんざきょうることかぎりなし。

しばらく踊った後、抜こうとしても、全く抜けません。

しばしかなでてのちかんとするに、おほかたかれず。

宴会はすっかり興ざめしてしまい、「どうしようか」と途方に暮れました。

酒宴しゅえんことさめて、「いかがはせん」とまどひけり。

あれこれするうちに、首の周りはむけて血が流れ、

とかくすれば、くびのまはりけてり、

ただただ腫れ上がって、息も詰まってきたので、

ただれにちて、いきもつまりければ、

たたき割ろうとしますが、簡単には割れません。

らんとすれど、たやすくれず。

叩く音が頭に響いて耐えがたいので、それもできず、

ひびきてへがたかりければ、かなはで、

なす術もなく、三本足の角のような部分の上に着物をかぶせ、

すべきやうなくて、三足みつあしなるつのうへに、帷子かたびらをうちかけて、

手を取り、杖をつかせながら、京都の医者のところへ連れて行きました。

き、つゑかせて、きょうなる医師くすしのがりきける。

途中、人々が怪しんで見ること、この上ありません。

みちすがら、ひとあやしみることかぎりなし。

医者のもとへ入っていき、向かい合って座った様子は、

医師くすしのもとにさしりて、むかたりけんありさま、

さぞかし異様だったことでしょう。

さこそ異様ことやうなりけめ。

何かを言っても、くぐもった声で響いて聞き取れません。

ものをふも、くぐもりごゑひびきてこえず。

「こんなことは医学書にもなく、伝え聞いた治療法もない」と言うので、

「かかることは、ふみにもえず、つたへたるをしへもなし」とへば、

また仁和寺へ帰り、親しい者や、高齢の母親などが、

また仁和寺にんなじかへりて、したしきものいたるははなど、

枕元に寄り添って、泣き悲しみますが、

枕上まくらがみて、かなしめども、

本人には聞こえているとも思えません。

くらんともおぼえず。

こうしているうちに、ある者が言うことには、

かかるほどに、あるものふやう、

「たとえ耳や鼻がちぎれても、

「たとひ、耳鼻みみはなこそすとも、

命さえ助かればよいではないか。

いのちばかりはなどかきざらん。

とにかく力をこめて引き抜きなさい」と言って、

ただちからててたまへ」とて、

わらしべを周りに差し込み、金属が直接当たらないようにして、

わらのしべをまはりにさしれて、かねへだてて、

首がちぎれんばかりに引いたところ、

くびもちぎるばかりきたるに、

耳や鼻はちぎれ落ちてしまったが、抜けました。

耳鼻みみはなけうげながらけにけり。

かろうじて命は助かり、

からきいのちまうけて、

その後、長い間病に伏せっていたということです。

ひさしくみゐたりけり。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

📚古文全文

これも仁和寺にんなじ法師ほうしわらは法師ほうしにならんとする名残なごりとて、おのおのあそぶことありけるに、ひて、きょうるあまり、かたはらなる足鼎あしがなへりて、かしらにかづきたれば、つまるやうにするを、はなひらめて、かほをさしれてでたるに、満座まんざきょうることかぎりなし。
しばしかなでてのちかんとするに、おほかたかれず。酒宴しゅえんことさめて、「いかがはせん」とまどひけり。とかくすれば、くびのまはりけてり、ただれにちて、いきもつまりければ、らんとすれど、たやすくれず。
ひびきてへがたかりければ、かなはで、すべきやうなくて、三足みつあしなるつのうへに、帷子かたびらをうちかけて、き、つゑかせて、きょうなる医師くすしのがりきける。みちすがら、ひとあやしみることかぎりなし。
医師くすしのもとにさしりて、むかたりけんありさま、さこそ異様ことやうなりけめ。ものをふも、くぐもりごゑひびきてこえず。「かかることは、ふみにもえず、つたへたるをしへもなし」とへば、また仁和寺にんなじかへりて、したしきものいたるははなど、枕上まくらがみて、かなしめども、くらんともおぼえず。
かかるほどに、あるものふやう、「たとひ、耳鼻みみはなこそすとも、いのちばかりはなどかきざらん。ただちからててたまへ」とて、わらのしべをまはりにさしれて、かねへだてて、くびもちぎるばかりきたるに、耳鼻みみはなけうげながらけにけり。
からきいのちまうけて、ひさしくみゐたりけり。