真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
質問には曖昧に答えず、明快に教えるべきだ。要領を得ない伝え方も不愉快で、これらは世慣れない未熟者のすることだと説く。

🌙現代語対訳
人が、何かを質問した時に、「知らないわけではないが、
人の、物を問ひたるに、「知らずしもあらじ。
ありのままに答えるのは、差し出がましい」とでも思うのか、
ありのままに言はんは、をこがまし」とにや、
相手を惑わすような返事をするのは、良くないことです。
心惑はすやうに返事したる、よからぬことなり。
知っていることでも、「もっとはっきりさせたい」と思って問うのだろうし、
知りたることも、「なほさだかに」と思ひてや問ふらん、
また、本当に知らない人もいないわけではありません。
また、まことに知らぬ人もなどかなからん。
明快に言葉で説明すればそのほうが、おちついた大人に見えるでしょう。
うららかに言ひ聞かせたらんは、おとなしく聞こえなまし。

また、こちらがまだ聞いていない事柄について、知っている人が自分の知るままに、
人は、いまだ聞き及ばぬことを、わが知りたるままに、
「それにしても、あの人のあの件は嘆かわしい」
「さても、その人のことのあさましさ」
などとだけ知らせてくると、
などばかり言ひやりたれば、
「一体何があったのか」と、
「いかなることのあるにか」と、
重ねて問い合わせなければならず、不愉快です。
おし返し問ひにやるこそ、心づきなけれ。
世間では古くなった話でも、
世に古りぬることをも、
たまたま聞き漏らしている場合もあるのですから、
おのづから聞き漏らすあたりもあれば、
はっきりと分かるように伝えてあげて、
おぼつかなからぬやうに告げやりたらん、
何か悪いことがあるでしょうか。
悪しかるべきことかは。
このようなことは、未熟な人がすることです。
かやうのことは、もの馴れぬ人のあることなり。
📚古文全文
人の、物を問ひたるに、「知らずしもあらじ。ありのままに言はんは、をこがまし」とにや、心惑はすやうに返事したる、よからぬことなり。
知りたることも、「なほさだかに」と思ひてや問ふらん、また、まことに知らぬ人もなどかなからん。うららかに言ひ聞かせたらんは、おとなしく聞こえなまし。
人は、いまだ聞き及ばぬことを、わが知りたるままに、「さても、その人のことのあさましさ」などばかり言ひやりたれば、「いかなることのあるにか」と、おし返し問ひにやるこそ、心づきなけれ。世に古りぬることをも、おのづから聞き漏らすあたりもあれば、おぼつかなからぬやうに告げやりたらん、悪しかるべきことかは。
かやうのことは、もの馴れぬ人のあることなり。