真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
五条内裏での化け狐の目撃談。人のように座り碁を覗いていたが、正体を見破られ慌てて逃げ去った。

🌙現代語対訳
五条の皇居には、化け物がいたそうです。
五条内裏には妖物ありけり。
藤大納言様が、こう語っておられました。
藤大納言殿、語られ侍りしは、
上級貴族たちが、黒戸という部屋で碁を打っていると、
殿上人ども、黒戸にて碁を打ちけるに、
すだれを上げて、こちらを覗く者がいました。
御簾をかかげて見る物あり。
『誰だ』とそちらを見ると、
「誰そ」と見向きたれば、
狐が、人間のようにきちんと座って、
狐、人のやうについゐて、
覗き込んでいました。
さしのぞきたるを、
『なんだ、狐だ』と騒いだところ、
「あれ、狐よ」とどよまれて、
慌てふためいて逃げていきました
まどひ逃げにけり。
未熟な狐が、化けるのに失敗したのでしょう。
未練の狐、化け損じけるにこそ。
📚古文全文
五条内裏には妖物ありけり。
藤大納言殿、語られ侍りしは、殿上人ども、黒戸にて碁を打ちけるに、御簾をかかげて見る物あり。「誰そ」と見向きたれば、狐、人のやうについゐて、さしのぞきたるを、「あれ、狐よ」とどよまれて、まどひ逃げにけり。
未練の狐、化け損じけるにこそ。