真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
僧侶の乗願房が、追善には自宗の念仏より経典に確かな根拠のある真言を挙げた、その実直な姿勢。

🌙現代語対訳
竹谷の乗願房というお坊さんが、東二条院(後深草天皇の中宮)のもとへ参上した時のことです。
竹谷乗願房、東二条院へ参られたりけるに、
「亡くなった人の供養には、何をするのが最も功徳が大きいのでしょうか」と
「亡者の追善には、何事か勝利多き」と
お尋ねになりました。すると、
尋ねさせ給ひければ、
乗願房は「光明真言と、宝篋印陀羅尼です」と答えました。
「光明真言。宝篋印陀羅尼」と申されたりけるを、
弟子たちは、「どうしてそのようにお答えになったのですか。
弟子ども、「いかにかくは申し給ひけるぞ。
『念仏に勝るものはございません』と、
『念仏にまさること候ふまじ』とは、
なぜおっしゃらなかったのですか」と尋ねました。すると、
など申し給はぬぞ」と申しければ、
「我が宗派の教えですから、そのように申し上げたかった。しかし、
「家宗なれば、さこそ申さまほしかりつれども、
はっきりと『念仏を、追善に唱えることが、大きな功徳になる』と
まさしく、『称名を追福に修して巨益あるべし』と
説いている経典を、まだ見たことがないのです。
説ける経文を見及ばねば、
『何というお経に出ていますか』と重ねてお尋ねがあった場合に、
『『何に見えたるぞ』と重ねて問はせ給はば、
何とお答えすればよいだろうか、と思いました。
いかが申さん』と思ひて、
ですから、根拠となるお経が確かなものであるという点で、
本経の確かなるにつきて、
例の真言と陀羅尼を申し上げたのです」と言われた。
この真言・陀羅尼をば申しつるなり」とぞ申されける。
📚古文全文
竹谷乗願房、東二条院へ参られたりけるに、「亡者の追善には、何事か勝利多き」と尋ねさせ給ひければ、「光明真言。宝篋印陀羅尼」と申されたりけるを、弟子ども、「いかにかくは申し給ひけるぞ。『念仏にまさること候ふまじ』とは、など申し給はぬぞ」と申しければ、「家宗なれば、さこそ申さまほしかりつれども、まさしく、『称名を追福に修して巨益あるべし』と説ける経文を見及ばねば、『『何に見えたるぞ』と重ねて問はせ給はば、いかが申さん』と思ひて、本経の確かなるにつきて、この真言・陀羅尼をば申しつるなり」とぞ申されける。