真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
天王寺の舞楽が都に劣らないのは、聖徳太子ゆかりの鐘の音(黄鐘調)を基準に調律するためだ。鐘の音は無常を表す黄鐘調が理想とされる。

🌙現代語対訳
「何事においても、地方は田舎びて、洗練されていないものだが、
「何事も辺土は賤しく、かたくななれども、
天王寺の舞楽だけは、都に引けを取らない」と、ある人が言いました。
「当寺の音楽は、基準とよく合わせるので、
「当寺の楽は、よく図を調べあはせて、
楽器の音が、見事に整っており、他の寺よりも優れているのです。
ものの音の、めでたくととのほり侍ること、ほかよりも優れたり。
その理由は、聖徳太子の時代の基準器が、今も残っていてそれを基本としています。
ゆゑは、太子の御時の図、今に侍るをはかせとす。
それは、六時堂の前にある鐘のことです。
いはゆる六時堂の前の鐘なり。
その音は、黄鐘調という音階の中心の音です。
その声、黄鐘調の最中なり。
暑さ寒さの影響で、音の高低があるので、
寒暑にしたがひて、上り下りあるべきゆゑに、
二月の涅槃会から聖霊会までの間の音を基準としています。
二月涅槃会より聖霊会までの中間を指南とす。
これは当寺の秘伝です。
秘蔵のことなり。
この一つの音をもとにして、すべての楽器の音を調律するのです」と言いました。
この一調子をもちて、いづれの声をもととのへ侍るなり」と申しき。
たいていの場合、鐘の音は黄鐘調であるべきです。
およそ、鐘の声は黄鐘調なるべし。
これは無常を表す音階で、祇園精舎にあった無常院の鐘の音です。
これ無常の調子、祇園精舎の無常院の声なり。
西園寺の鐘も、「黄鐘調で鋳造するように」とのことで、
西園寺の鐘、「黄鐘調に鋳らるべし」とて、
何度も鋳造し直しましたが、うまくいかなかったため、
あまた度鋳かへられけれども、かなはざりけるを、
わざわざ遠い地方から探し出してこられたものです。
遠国より尋ね出だされける。
浄金剛院の鐘の音も、また黄鐘調です。
浄金剛院の鐘の声、また黄鐘調なり。
📚古文全文
「何事も辺土は賤しく、かたくななれども、天王寺の舞楽のみ、都に恥ぢず」と言へば、天王寺の伶人の申し侍りしは、「当寺の楽は、よく図を調べあはせて、ものの音の、めでたくととのほり侍ること、ほかよりも優れたり。ゆゑは、太子の御時の図、今に侍るをはかせとす。いはゆる六時堂の前の鐘なり。その声、黄鐘調の最中なり。寒暑にしたがひて、上り下りあるべきゆゑに、二月涅槃会より聖霊会までの中間を指南とす。秘蔵のことなり。この一調子をもちて、いづれの声をもととのへ侍るなり」と申しき。
およそ、鐘の声は黄鐘調なるべし。これ無常の調子、祇園精舎の無常院の声なり。西園寺の鐘、「黄鐘調に鋳らるべし」とて、あまた度鋳かへられけれども、かなはざりけるを、遠国より尋ね出だされける。浄金剛院の鐘の声、また黄鐘調なり。