真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
北条時頼が家臣を夜に呼び、ありあわせの味噌を肴に酒を酌み交わした逸話です。当時の質素倹約でありながらも、心豊かな主従関係が偲ばれます。

🌙現代語対訳
平宣時という朝臣が、年老いてから、昔語りとして話されました。
平宣時朝臣、老いの後、昔語りに、
「最明寺入道(北条時頼公)から、ある夜、呼び出しがありました。
「最明寺入道、ある宵の間に呼ばるることありしに、
『すぐ参ります』と言ったものの、直垂(武士の正装)がなく、あれこれと手間取っていました。
『やがて』と申しながら、直垂のなくてとかくせしほどに、
再び使いが来て、『直垂がないですか。
また使来たりて、『直垂などの候はぬにや。
夜ですから、変な格好でいいので、早く』とのお言葉でした。
夜なれば、異様なりとも、とく』とありしかば、
よれよれになった直垂で、普段着のままで参上しました。
なえたる直垂、うちうちのままにてまかりたりしに、
入道殿は銚子に土器の杯をそろえて、持ってきて、
銚子に土器取り添へて、持て出でて、
『この酒を一人で飲むのも寂しいので、お呼びしたのだ。
『この酒を一人たうべんがさうざうしければ申しつるなり。
肴は何もないが、もう皆寝静まっているだろうから、
肴こそなけれ、人は静まりぬらん、
ふさわしい物がないか、どこでもかまわないので探してみてくれ』と言われたので、
さりぬべき物やあると、いづくまでも求め給へ』とありしかば、
手持ちの燭台で照らしながら、隅々まで探しましたところ、
紙燭さして、くまぐまを求めしほどに、
台所の棚に、小さな土器に味噌が少し付いているのを見つけ出しました。
台所の棚に、小土器に味噌の少し付きたるを見出でて、
『これを見つけてまいりました』と申し上げると、
『これぞ求め得て候ふ』と申しかば、
『それで十分だ』とおっしゃり、楽しげに何杯も酌み交わし、
『事足りなん』とて、心よく数献に及びて、
興に入っておられました。
興に入られ侍りき。
あの時代は、このようでしたと、宣時公は申されました。
その世には、かくこそ侍りしか」と申されき。
📚古文全文
平宣時朝臣、老いの後、昔語りに、「最明寺入道、ある宵の間に呼ばるることありしに、『やがて』と申しながら、直垂のなくてとかくせしほどに、また使来たりて、『直垂などの候はぬにや。夜なれば、異様なりとも、とく』とありしかば、なえたる直垂、うちうちのままにてまかりたりしに、銚子に土器取り添へて、持て出でて、『この酒を一人たうべんがさうざうしければ申しつるなり。肴こそなけれ、人は静まりぬらん、さりぬべき物やあると、いづくまでも求め給へ』とありしかば、紙燭さして、くまぐまを求めしほどに、台所の棚に、小土器に味噌の少し付きたるを見出でて、『これぞ求め得て候ふ』と申しかば、『事足りなん』とて、心よく数献に及びて、興に入られ侍りき。その世には、かくこそ侍りしか」と申されき。