古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草211|よろづのことは頼むべからず。愚かなる人は、深くものを頼むゆゑに・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

権勢、富、才能、人の心など、この世の万事は頼りにならず執着すべきではない。何事も頼みとせず、心を天地のように広く保てば、感情に乱されず穏やかでいられる。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

何事においても頼りにしてはいけません。

よろづのことはたのむべからず。

愚かな人は、深く頼りにしてしまうからこそ、恨んだり怒ったりするのです。

おろかなるひとは、ふかくものをたのむゆゑに、うらいかることあり。

 

 

権勢があるからといって、頼りにしてはいけません。強い者は先に滅びます。

いきおひありとて、たのむべからず。こわもの、まづほろぶ。

財産が多いといって、頼りにしてはいけません。あっという間に失いやすいものです。

たからおおしとて、たのむべからず。ときうしなひやすし。

才能があるといって、頼りにしてはいけません。孔子でさえ、時代に恵まれませんでした。

さいありとて、たのむべからず。孔子こうしときにあはず。

徳があるといって、頼りにしてはいけません。顔回孔子の弟子)も不幸でした。

とくありとて、たのむべからず。顔回がんかい不幸ふこうなりき。

主君からの寵愛も、頼りにしてはいけません。罰を受けるのはあっという間です。

きみちょうをも、たのむべからず。ちゅうくることすみやかなり。

召使いが従順だといって、頼りにしてはいけません。裏切って逃げることもあります。

やっこしたがへりとて、たのむべからず。そむきはしることあり。

人の厚意も、頼りにしてはいけません。人の心は必ず変わるものです。

ひとこころざしをも、たのむべからず。かならへんず。

約束も、頼りにしてはいけません。誠実な約束は滅多にないからです。

やくをも、たのむべからず。しんあることすくなし。

自分も他人も頼りにしなければ、うまくいった時は喜び、うまくいかなかった時も恨むことがありません。

をもひとをもたのまざれば、なるときよろこび、なるときうらみず。

左右が広ければ妨げられず、前後の奥行きがあれば行き詰まりません。

左右そうひろければさはらず。前後ぜんごとおければふさがらず。

狭いと、押しつぶされ、砕かれてしまうのです。

せばときはひしげくだく。

 

 

心の使い方が細かくて、厳格すぎると、

こころもちゐることすこしきにして、きびしきときは、

物事と対立し争って破綻します。

ものにさかひあらそひてやぶる。

心がゆったりと柔らかであれば、髪の毛一本ほどの損害も受けません。

ゆるくしてやわらかなるときは、一毛いちもうそんぜず。

 

 

人は天地の霊妙な本質を受け継いでいます。天地には限りがありません。

ひと天地てんちれいなり。天地てんちかぎところなし。

人の本性が、どうしてそれと異なるでしょうか。

ひとしょうなんことならん。

心が広大で限りがなければ、喜びや怒りに心を乱されることもなく、

寛大かんだいにしてきわまらざるときは、喜怒きどこれにさはらずして、

物事に思い悩みません。

もののためにわずらはず。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

📚古文全文

よろづのことはたのむべからず。おろかなるひとは、ふかくものをたのむゆゑに、うらいかることあり。
いきおひありとて、たのむべからず。こわもの、まづほろぶ。たからおおしとて、たのむべからず。ときうしなひやすし。さいありとて、たのむべからず。孔子こうしときにあはず。とくありとて、たのむべからず。顔回がんかい不幸ふこうなりき。きみちょうをも、たのむべからず。ちゅうくることすみやかなり。やっこしたがへりとて、たのむべからず。そむきはしることあり。ひとこころざしをも、たのむべからず。かならへんず。やくをも、たのむべからず。しんあることすくなし。
をもひとをもたのまざれば、なるときよろこび、なるときうらみず。左右そうひろければさはらず。前後ぜんごとおければふさがらず。せばときはひしげくだく。
こころもちゐることすこしきにして、きびしきときは、ものにさかひあらそひてやぶる。ゆるくしてやわらかなるときは、一毛いちもうそんぜず。
ひと天地てんちれいなり。天地てんちかぎところなし。ひとしょうなんことならん。寛大かんだいにしてきわまらざるときは、喜怒きどこれにさはらずして、もののためにわずらはず。