古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草206|徳大寺右大臣殿、検非違使の別当の時、中門にて、使庁の評定行はれけるほどに・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

徳大寺家の親子が、庁舎に牛が入り込んだ怪異を冷静に処理し、凶事を避けた逸話。いたずらに騒がなければ、不思議なこと自体が力を失うという教え。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

徳大寺家の右大臣殿が、

徳大寺とくだいじ右大臣うだいじん殿どの

検非違使の長官であった時のことです。

検非違使けびいし別当べっとうとき

内側の門の側の部屋で、役所の会議が開かれていたところ、

中門ちゅうもんにて、使庁しちょう評定ひょうじょうおこなはれけるほどに、

章兼という役人が連れていた牛が放れてしまい、

官人かんにん章兼あきかねうしはなれて、

庁舎の中に入ってきました。

ちょううちりて、

そして、長官の席の台座の上にのぼると、

大理だいり浜床はまゆかうえあがりて、

畳のへりをかじって、寝そべったのです。

にれうちかみてしたりけり。

「大変不吉なことだ」と言って、

おも怪異けいなり」とて、

牛を陰陽師に占わせるべきだと

うし陰陽師おんみょうじのもとへつかはすべきよし、

口々に言いましたが、

おのおのもうしけるを、

右大臣の父である相国様がこれを聞いて、

ちち相国しょうこくたまひて、

「牛に人間のような分別はない。足があるのだから、どこにだって上るだろう。

うし分別ふんべつなし。あしあれば、いづくへかがらざらん。

身分の低い役人が、たまに出仕するためのけちな牛を、取り上げるべきではない」。

尫弱おうじゃく官人かんにん、たまたま出仕しゅっし微牛びぎゅうらるべきやうなし」

そういって、牛は持ち主に返し、

とて、うしをばぬしかえして、

牛が寝そべっていた畳は替えさせました。

したりけるたたみをばへられにけり。

まったく不吉なことは起こらなかったということです。

あへて凶事きょうじなかりけるとなん。

「不思議なことを見ても、いたずらに騒がなければ、

あやしみをあやしまざるときは、

不思議なことが力を失ってしまう」という言葉があります。

あやしみかへりてやぶる」とへり。

📚古文全文

徳大寺とくだいじ右大臣うだいじん殿どの検非違使けびいし別当べっとうとき中門ちゅうもんにて、使庁しちょう評定ひょうじょうおこなはれけるほどに、官人かんにん章兼あきかねうしはなれて、ちょううちりて、大理だいり浜床はまゆかうえあがりて、にれうちかみてしたりけり。
おも怪異けいなり」とて、うし陰陽師おんみょうじのもとへつかはすべきよし、おのおのもうしけるを、ちち相国しょうこくたまひて、「うし分別ふんべつなし。あしあれば、いづくへかがらざらん。尫弱おうじゃく官人かんにん、たまたま出仕しゅっし微牛びぎゅうらるべきやうなし」とて、うしをばぬしかえして、したりけるたたみをばへられにけり。あへて凶事きょうじなかりけるとなん。
あやしみをあやしまざるときは、あやしみかへりてやぶる」とへり。