真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
夜は物の輝きや人の装い、声や香りなど、あらゆるものが昼間とは違う趣で一層素晴らしく感じられる、という夜の魅力を説く。

🌙現代語対訳
「夜になると、物は見栄えがしない」と言う人がいますが、とても残念です。
「夜に入りて、物の栄えなし」と言ふ人、いと口惜し。
いろいろな物の輝きや、飾り、色合いの趣は、夜だからこそ、素晴らしいものです。
よろづの物のきら、飾り・色ふしも、夜のみこそめでたけれ。
日中は、簡素で落ち着いた姿でもよいでしょう。
昼は、ことそぎ、およすげたる姿にてもありなん。
夜は、きらびやかで、華やかな装いがとても映えます。
夜は、きららかに、花やかなる装束いとよし。
人の顔つきも、夜の灯火の下でこそ、美しい人はより美しく、
人の気色も、夜の火影ぞ、よきはよく、
暗がりの中で聞く話し声も、心くばりが行き届いて心惹かれます。
もの言ひたる声も暗くて聞きたる、用意ある心にくし。
香りも、物の音も、夜にこそ、一層すばらしく感じられるのです。
匂ひも、ものの音も、ただ夜ぞ、ひときはめでたき。
特に何もない夜に、更けてからやって来た人で、
さしてことなることなき夜、うち更けて参れる人の、
洗練された様子の人は、とても素敵です。
清げなるさましたる、いとよし。
若い者同士、想いを寄せている見ている人は、いつでも見ているものなので、
若きどち、心とどめて見る人は、時をも分かぬものなれば、
特に、気が緩みがちな時にこそ、日常か公式かなどに関わらず、身なりを整えていたいものです。
ことにうちとけぬべき折節ぞ、褻・晴なくひきつくろはまほしき。
素敵な男性が、日が暮れてから髪を整え、
よき男の、日暮れてゆするし、
女性も夜が更けてから、退出し鏡を取り出して
女も夜更くるほどに、すべりつつ、鏡取りて、
化粧を直し、出仕する様子は、とても趣があるものです。
顔などつくろひて出づるこそをかしけれ。
📚古文全文
「夜に入りて、物の栄えなし」と言ふ人、いと口惜し。よろづの物のきら、飾り・色ふしも、夜のみこそめでたけれ。
昼は、ことそぎ、およすげたる姿にてもありなん。夜は、きららかに、花やかなる装束いとよし。人の気色も、夜の火影ぞ、よきはよく、もの言ひたる声も暗くて聞きたる、用意ある心にくし。匂ひも、ものの音も、ただ夜ぞ、ひときはめでたき。
さしてことなることなき夜、うち更けて参れる人の、清げなるさましたる、いとよし。若きどち、心とどめて見る人は、時をも分かぬものなれば、ことにうちとけぬべき折節ぞ、褻・晴なくひきつくろはまほしき。よき男の、日暮れてゆするし、女も夜更くるほどに、すべりつつ、鏡取りて、顔などつくろひて出づるこそをかしけれ。