古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草170|さしたることもなくて、人のがり行くはよからぬことなり・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

用事のない訪問や長居は迷惑だが、気の合う人との語らいは別。また、ふらりと立ち寄る短い訪問や手紙はかえって嬉しいと説く。

阮籍三国時代の思想家)は、気に入らないと白眼、気に入ると青眼で対応したという。白眼視の語源。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

たいした用事もないのに

さしたることもなくて、

人の家を訪ねるのは、良くないことです。

ひとのがりくはよからぬことなり。

用事があって訪問した場合でも、

ようありてきたりとも、

その用件が済んだら、すぐに帰るべきです。

そのことてなば、とくかへるべし。

長居をされるのは、非常に不快なものです。

ひさしくたる、いとむつかし。

人と向き合っていると、言葉数が多くなり、

ひとむかひたれば、言葉ことばおおく、

体も疲れ、心も落ち着きません。

もくたびれ、こころもしづかならず。

様々なことが妨げられて、時間を無駄にするのは、

よろづのことさはりて、ときうつす、

お互いにとって得になりません。

たがひのためやくなし。

迷惑そうな態度で言うのも感じが悪いものです。

いとはしげにはんもわろし。

気に入らないことがある場合は、

こころづきなきことあらんをりは、

はっきりとその旨を伝えたほうが良いでしょう。

なかなかそのよしをもひてん。

気が合って心から語り合いたいと思う相手が、

おなこころむかはまほしくおもはんひとの、

手持ち無沙汰で「もう少し。今日はゆっくりと」

つれづれにて、「いましばし。今日けふこころしづかに」

などと言ってくれるのであれば、この限りではありません。

などはんは、このかぎりにはあらざるべし。

阮籍の青眼は、誰にでもあるのは当然のことです。

阮籍げんせきあをまなこたれもあるべきことなり。

これといった用件もなく、人が訪ねてきて、

そのこととなきに、ひとたりて、

のんびりと話をして帰っていくのは、とても良いものです。

のどかに物語ものがたりしてかへりぬる、いとよし。

また手紙も、「ご無沙汰しておりますので」といった短い挨拶だけを

またふみも、「ひさしくこえさせねば」などばかり

書いて送ってくれるのは、たいへん嬉しいものです。

ひおこせたる、いとうれし。

📚古文全文

さしたることもなくて、ひとのがりくはよからぬことなり。ようありてきたりとも、そのことてなば、とくかへるべし。ひさしくたる、いとむつかし。
ひとむかひたれば、言葉ことばおおく、もくたびれ、こころもしづかならず。よろづのことさはりて、ときうつす、たがひのためやくなし。いとはしげにはんもわろし。こころづきなきことあらんをりは、なかなかそのよしをもひてん。
おなこころむかはまほしくおもはんひとの、つれづれにて、「いましばし。今日けふこころしづかに」などはんは、このかぎりにはあらざるべし。阮籍げんせきあをまなこたれもあるべきことなり。
そのこととなきに、ひとたりて、のどかに物語ものがたりしてかへりぬる、いとよし。またふみも、「ひさしくこえさせねば」などばかりひおこせたる、いとうれし。