古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草155|世にしたがはん人は、まづ機嫌を知るべし・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

世渡りには時機を知ることが重要。しかし生老病死は時を選ばない。本当に為すべきことは、背後に迫る死を意識して即実行すべきだ。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

世の中でうまくやろうと思う人は、まずタイミングを知らなくてはいけない。

にしたがはんひとは、まづ機嫌きげんるべし。

タイミングが悪いと、人は聞く耳を持たず、気分を損ねてしまい、

ついでしきことは、ひとみみにもさかひ、こころにもたがひて。

そのことはうまくいかない。そうした時と場合を、よくわきまえるべきである。

そのことならず。さやうの折節をりふし心得こころうべきなり。

 

ただし、病気になること、子どもが生まれること、死ぬことだけは、

ただし、やまひけ、み、ぬることのみ、

タイミングを計画できないので、「都合が悪い」と言って止めることはできない。

機嫌きげんをはからず、「ついでし」とてむことなし。

生まれて、生きて、変化して、滅びるという、真に重要なことは、

生住異滅しやうぢゅういめつうつるまことの大事だいじは、

激しい川の水があふれ流れるようだ。

たけきかはのみなぎりながるるがごとし。

わずかな時間もとどまらず、ただちに進んでいくものである。

しばしもとどこほらず。ただちにおこなひゆくものなり。

 

だから、仏の道に関することであれ、俗世のことであれ、必ずやり遂げようと心に決めたことは、

されば、真俗しんぞくにつけて、かならげんと思はんことは、

タイミングがどうだと言ってはならない。あれこれ準備せず、

機嫌きげんふべからず。とかくのもよひなく。

足踏みして留まってはならない。

あしみとどむまじきなり。

 

春が終わって夏になり、夏が過ぎて秋が来る、というわけではない。

はるれてのちなつになり、なつててあきるにはあらず。

春のうちからすでに夏の気配が生まれ、夏にはもう秋が来始め、

はるはやがてなつもよほし、なつよりすでにあきかよひ、

秋はすぐに寒くなり、十月(新暦11月ごろ)には小春日和があったり、

あきはすなはちさむくなり、十月じゅうがつ小春こはる天気てんき

草も青くなり、梅も蕾をつける。

くさあをくなり、うめもつぼみぬ。

木の葉が落ちるのも、先に葉が落ちてから芽が出るのではない。

つるも、まづぐむにはあらず。

内側から伸びてくる力に耐えきれなくなって、葉が落ちるのだ。

したよりきざしつはるにへずしてつるなり。

迎える準備が、内側にできているから、

むかふるしたにまうけたるゆゑに、

待ち受けた一連の工程は、きわめて速やかなのだ。

ちとるついではなはだはやし。

 

生老病死の変化は、この季節の移り変わり以上に速い。

生老病死しょうろうびょうしうつれるころ、またこれにぎたり。

四季にはまだ決まった順序がある。しかし、人が死ぬ時期に決まった順序はない。

四季しきはなほさだまれるついであり。死期しごはついでをたず。

死は前方から来るとか限らず、いつの間にか、背後に迫っている。

まへよりしもたらず。かねてうしろにせまれり。

人は、誰もが死ぬことを知っていて、

ひと、みなあることをりて、

待ってはいても、そんなに切迫感がないけれど、思いがけずやって来るのだ。/p>

つことしかもきゅうならざるに、おもえずしてたる。

沖まで干潟が遠くまで続いていても、岸辺から潮が満ちてくるようなものである。

おき干潟ひかたはるかなれども、いそよりしおつるがごとし。

📚古文全文

にしたがはんひとは、まづ機嫌きげんるべし。ついでついでしきことは、ひとみみにもさかひ、こころにもたがひて。そのことならず。さやうの折節おりふし心得こころうべきなり。
ただし、やまいけ、み、ぬることのみ、機嫌きげんをはからず、「ついでし」とてむことなし。生住異滅しょうじゅういめつうつるまことの大事だいじは、たけきかわのみなぎりながるるがごとし。しばしもとどこおらず。ただちにおこなひゆくものなり。
されば、真俗しんぞくにつけて、かならげんと思はんことは、機嫌きげんふべからず。とかくのもよひなく。あしみとどむまじきなり。
はるれてのちなつになり、なつててあきるにはあらず。はるはやがてなつもよおし、なつよりすでにあきかよひ、あきはすなはちさむくなり、十月じゅうがつ小春こはる天気てんきくさあおくなり、うめもつぼみぬ。つるも、まづぐむにはあらず。したよりきざしつはるにへずしてつるなり。むかふるしたにまうけたるゆゑに、ちとるついではなはだはやし。
生老病死しょうろうびょうしうつれるころ、またこれにぎたり。四季しきはなほさだまれるついであり。死期しごはついでをたず。まえよりしもたらず。かねてうしろにせまれり。ひと、みなあることをりて、つことしかもきゅうならざるに、おもえずしてたる。おき干潟ひかたはるかなれども、いそよりしおつるがごとし。