古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草144|栂尾の上人、道を過ぎ給ひけるに、河にて馬洗ふおのこ・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

栂尾の上人は、馬洗いの男の何気ない言葉に仏法の深遠な教えを見出し、尊い仏縁を結べたことに感涙したという話。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

栂尾の明恵上人(※華厳宗の僧、茶の普及で有名)が、道を通りかかったとき、

栂尾とがのを上人しやうにんみちたまひけるに、

川で馬を洗っている男が、「脚、脚(あし、あし)」と言っていました。

かはにてうまあらふおのこ、「あしあし」とひてければ、

すると上人は、立ち止まって、

上人しやうにんまりて、

「ああ、なんと尊いことか。宿執開発(※前世の善い行いの結果が現世に現れること)の人に違いない。

「あなたふとや。宿執開発しゆくしふかいほつひとかな。

阿字、阿字(※仏法の根源とされる文字)と唱えておられる。

阿字阿字あじあじとなふるぞや。

いったいどなたのお馬ですか。あまりに尊く思えるのですが」

いかなるひと御馬おんうまぞ。あまりにたふとおぼゆるは」

と尋ねると、

たづたまひければ、

男は「府生殿(※警備の役人)のお馬でございます」と答えました。

府生殿ふしやうどの御馬おんうまさうらふ」とこたへけり。

「これは、素晴らしいことだ。

「こは、めでたきことかな。

阿字本不生(※阿字は本来不生不滅という教え)ということでしょう。

阿字本不生あじほんぷしやうにこそあなれ。

嬉しい仏縁を結ぶことができた」と言って、

うれしき結縁けちえんをもしつるかな」とて、

感激して涙を流したということです。

感涙かんるいをのごはれけるとぞ。

📚古文全文

栂尾とがのを上人しやうにんみちたまひけるに、かはにてうまあらふおのこ、「あしあし」とひてければ、上人しやうにんまりて、「あなたふとや。宿執開発しゆくしふかいほつひとかな。阿字阿字あじあじとなふるぞや。いかなるひと御馬おんうまぞ。あまりにたふとおぼゆるは」とたづたまひければ、「府生殿ふしやうどの御馬おんうまさうらふ」とこたへけり。
「こは、めでたきことかな。阿字本不生あじほんぷしやうにこそあなれ。うれしき結縁けちえんをもしつるかな」とて、感涙かんるいをのごはれけるとぞ。