真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
死後に財産を残す愚かさを説く。物は執着や争いの元。生前に譲り、何も持たないのが理想だと兼好は語る。
🌙現代語対訳
死んだ後に財産を残すことは、賢い人がすることではありません。
身死して財残ることは、智者のせざるところなり。
つまらない物を残しておくのもみっともないですし、
よからぬ物、貯へ置きたるもつたなく、
立派な物は、「執着していたのだろう」と思われて空しいです。
よき物は、「心をとめけん」とはかなし。
やたらに多いと、なおさら残念で、
こちたく多かる、まして口惜し。
「私こそがそれを手に入れよう」などと言う者たちが、
「われこそ得め」など言ふ者どもありて、
死後に争う様子は見苦しい。
あとに争ひたる、さま悪し。
死後は誰かにと決めている物があるなら、
後は誰にと心ざす物あらば、
生きている間に譲ってしまうべきです。
生けらんうちにぞ譲るべき。
日々の生活で、なくてはならない物はあるでしょうが、
朝夕、無くてかなはざらん物こそあらめ、
それ以外は、一切持たないでいるのが理想的です。
そのほかは、何も持たでぞあらまほしき。
📚古文全文
身死して財残ることは、智者のせざるところなり。よからぬ物、貯へ置きたるもつたなく、よき物は、「心をとめけん」とはかなし。
こちたく多かる、まして口惜し。「われこそ得め」など言ふ者どもありて、あとに争ひたる、さま悪し。後は誰にと心ざす物あらば、生けらんうちにぞ譲るべき。
朝夕、無くてかなはざらん物こそあらめ、そのほかは、何も持たでぞあらまほしき。