古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草121|養ひ飼ふものは、馬・牛。つなぎ苦しむるこそ痛ましけれど・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

実用的な馬や牛は仕方ないが、趣味で鳥獣を籠に閉じ込め苦しめるのは、古代中国の暴君がすることだと説いている。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

飼育すべきものは、馬や牛です。

(やしな)()ふものは、(うま)(うし)

綱でつないで苦しめるのは心が痛みますが、

つなぎ(くる)しむるこそ(いた)ましけれど、

不可欠なものなので、仕方ありません。

なくてかなはぬものなれば、いかがはせん。

 

犬は家を守り泥棒を防ぐ働きが、人間以上ですから、

(いぬ)(まも)(ふせ)ぐつとめ、(ひと)にもまさりたれば、

ぜひとも飼うべきでしょう。

(かなら)ずあるべし。

 

しかし、どこの家にもいるものなので、

されど、(いえ)ごとにあるものなれば、

わざわざ探し求めて飼わなくてもいいでしょう。

ことさらに(もと)()はずともありなん。

 

それ以外の鳥や動物は、役に立たないものです。

そのほかの鳥獣(ちょうじゅう)、すべて(よう)なきものなり。

走る動物は檻に閉じ込められて、鎖につながれ、

(はし)(けだもの)(おり)()め、(くさり)をさされ、

飛ぶ鳥は羽を切られて、籠に入れられ、

()(とり)(つばさ)()り、()()れられて、

雲を恋しがり、野山を懐かしむ悲しみは、止まる時がありません。

(くも)()ひ、野山(のやま)(おも)(うれ)へ、やむときなし。

その気持ちを、自分の身に置き換えて耐えられないと感じるならば、

その(おも)ひ、わが()にあたりて(しの)びがたくは、

思いやりの心がある人なら、どうしてこれを楽しむことができるでしょうか。

(こころ)あらん(ひと)、これを(たの)しまんや。

生き物を苦しめて、目を楽しませるのは、

(せい)(くる)しめて、()(よろこ)ばしむるは、

中国の暴君、桀王(けつおう)や紂王(ちゅうおう)と同じ心です。

(けつ)(ちう)(こころ)なり。

文人の王子猷(おうしゆう)が鳥を愛でたのは、林で遊ぶのを見て、

王子猷(おうしゆう)(とり)(あい)せし、(はやし)(たの)しぶを()て、

散歩の友としていました。

逍遥(しょうよう)(とも)としき。

捕まえて苦しめたわけではありません。

(とら)(くる)しめたるにあらず。

「そもそも、珍しい鳥や奇妙な動物は、国内で飼うべきではない」と、

「およそ、(めずら)しき(とり)、あやしき(けもの)(くに)(やしな)はず」とこそ、

昔の書物にも書かれているそうです。

(ふみ)にも(はべ)るなれ。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

📚古文全文

(やしな)()ふものは、(うま)(うし)つな(つな)(くる)しむるこそ(いた)ましけれど、なくてかなはぬものなれば、いかがはせん。(いぬ)(まも)(ふせ)ぐつとめ、(ひと)にもまさりたれば、(かなら)ずあるべし。されど、(いえ)ごとにあるものなれば、ことさらに(もと)()はずともありなん。
そのほかの鳥獣(ちょうじゅう)、すべて(よう)なきものなり。(はし)(けだもの)(おり)()め、(くさり)をさされ、()(とり)(つばさ)()り、()()れられて、(くも)()ひ、野山(のやま)(おも)(うれ)へ、やむときなし。その(おも)ひ、わが()にあたりて(しの)びがたくは、(こころ)あらん(ひと)、これを(たの)しまんや。
(せい)(くる)しめて、()(よろこ)ばしむるは、(けつ)(ちう)(こころ)なり。王子猷(おうしゆう)(とり)(あい)せし、(はやし)(たの)しぶを()て、逍遥(しょうよう)(とも)としき。(とら)(くる)しめたるにあらず。
「およそ、(めずら)しき(とり)、あやしき(けもの)(くに)(やしな)はず」とこそ、(ふみ)にも(はべ)るなれ。