真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
鯉(こい)や雉(きじ)は格式高い食材だが雁(がん)は違う。中宮の調理場に雁が置いてあるのを父の入道殿が見て、作法がなっていないと手紙で諌めたという。

🌙現代語対訳
鯉(こい)の吸い物を食べた日は、髪がまとまるのだとか。
鯉の羹食ひたる日は、鬢そそけずとなん。
鯉は接着剤の原料にもなるくらいですから、粘り気のあるものなのでしょう。
膠にも作るものなれば粘りたるものにこそ。
鯉だけは、天皇の前でもさばくことできる、格式の高い魚です。
鯉ばかりこそ、御前にても切らるるものなれば、やんごとなき魚なり。
鳥の中では雉(きじ)が、並ぶもののないものでしょう。
鳥には雉、双なきものなり。
雉や松茸などは、宮中の調理場の棚に置いてあっても差し支えありません。
雉・松茸などは、御湯殿の上にかかりたるも苦しからず。
しかし、それ以外のものは、嫌がられるものです。
その外は心憂きことなり。
中宮様の御所の調理場にある黒塗りの棚に、雁(かり)が置いてあるのを、
中宮の御方の御湯殿の上の黒御棚に、雁の見えつるを、
中宮の父である北山入道様がご覧になりました。
北山入道殿の御覧じて、
入道様は自邸へお帰りになり、すぐに手紙を書き、
帰らせ給ひて、やがて御文にて、
「あのようなものが、そのままの姿で棚に置いてあるのは、
「かやうの物、さながらその姿にて御棚にゐて候ひしこと、
見たこともない、見苦しいことです。
見ならはず、さま悪しきことなり。
しっかりとした女房がお側に仕えていないからなのでしょう」と、申されたそうです。
はかばかしき人のさぶらはぬゆゑにこそ」など、申されたりけり。
📚古文全文
鯉の羹食ひたる日は、鬢そそけずとなん。膠にも作るものなれば粘りたるものにこそ。
鯉ばかりこそ、御前にても切らるるものなれば、やんごとなき魚なり。鳥には雉、双なきものなり。雉・松茸などは、御湯殿の上にかかりたるも苦しからず。その外は心憂きことなり。
中宮の御方の御湯殿の上の黒御棚に、雁の見えつるを、北山入道殿の御覧じて、帰らせ給ひて、やがて御文にて、「かやうの物、さながらその姿にて御棚にゐて候ひしこと、見ならはず、さま悪しきことなり。はかばかしき人のさぶらはぬゆゑにこそ」など、申されたりけり。