真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
大臣が牛飼いの専門性を尊重し、無知な供を嗜める話。自分の専門外のことには口を出さず、専門家を敬うべきだという教えが示されている。

🌙現代語対訳
今出川の大臣殿、嵯峨へおはしけるに、
有栖川を渡る、水が流れる浅瀬で、
有栖川のわたりに、水の流れたる所にて、
牛飼いの賽王丸が牛車の牛を急がせたところ、
賽王丸、御牛を追ひたりければ、
跳ね上げた水が、牛車の前板まで、さっとかかってしまいました。
あがきの水、前板まで、ささとかかりけるを、
牛車の後ろを随行していた為則という者が、
為則、御車のしりに候ひけるが、
「とんでもない奴だ。こんな場所で、牛を急がせる者があるか」と言いました。
「希有の童かな。かかる所にて、御牛をば追ふものか」と言ひたりければ、
大臣様は機嫌を損ねて、
大臣殿、御気色悪しくなりて、
「お前が、牛車の扱いについて、賽王丸より詳しいわけがあるまい。
「おのれ、車やらん事、賽王丸にまさりてえ知らじ。
お前こそ、とんでもない男だ」そう言うと、頭を車の壁に打ち付けました。
希有の男なり」とて、御車に頭を打ち当てられにけり。
この名高い牛飼いの賽王丸は、もとは太秦殿に仕えていた、
この高名の賽王丸は、太秦殿の男、
御用達の牛飼いであるぞ。
料の御牛飼ぞかし。
ところで、この太秦殿にお仕えしていた女房たちの名前ですが、
この太秦殿に侍りける女房の名ども、
一人は「ひささち」、一人は「ことつち」、
一人は「ひささち」、一人は「ことつち」、
一人は「はふはら」、もう一人は「をとうし」と付けられていたということです。
一人は「はふはら」。一人は「をとうし」と付けられけり。
📚古文全文
今出川の大臣殿、嵯峨へおはしけるに、有栖川のわたりに、水の流れたる所にて、賽王丸、御牛を追ひたりければ、あがきの水、前板まで、ささとかかりけるを、為則、御車のしりに候ひけるが、「希有の童かな。かかる所にて、御牛をば追ふものか」と言ひたりければ、大臣殿、御気色悪しくなりて、「おのれ、車やらん事、賽王丸にまさりてえ知らじ。希有の男なり」とて、御車に頭を打ち当てられにけり。
この高名の賽王丸は、太秦殿の男、料の御牛飼ぞかし。この太秦殿に侍りける女房の名ども、一人は「ひささち」、一人は「ことつち」、一人は「はふはら」。一人は「をとうし」と付けられけり。