古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草114|今出川の大臣殿、嵯峨へおはしけるに・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

大臣が牛飼いの専門性を尊重し、無知な供を嗜める話。自分の専門外のことには口を出さず、専門家を敬うべきだという教えが示されている。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

太政大臣今出川様が、嵯峨へお出かけになった時に、

いまがわ大臣殿おほいどの嵯峨さがへおはしけるに、

有栖川を渡る、水が流れる浅瀬で、

有栖川ありすがわのわたりに、みずながれたるところにて、

牛飼いの賽王丸が牛車の牛を急がせたところ、

賽王丸さいわうまる御牛おんうしひたりければ、

跳ね上げた水が、牛車の前板まで、さっとかかってしまいました。

あがきのみず前板まえいたまで、ささとかかりけるを、

牛車の後ろを随行していた為則という者が、

為則ためのり御車みくるまのしりにさぶらひけるが、

「とんでもない奴だ。こんな場所で、牛を急がせる者があるか」と言いました。

希有けうわらはかな。かかるところにて、御牛おんうしをばふものか」とひたりければ、

大臣様は機嫌を損ねて、

大臣殿おほいどの気色けしきしくなりて、

「お前が、牛車の扱いについて、賽王丸より詳しいわけがあるまい。

「おのれ、くるまやらんこと賽王丸さいわうまるにまさりてえらじ。

お前こそ、とんでもない男だ」そう言うと、頭を車の壁に打ち付けました。

希有けうおとこなり」とて、御車みくるまかしらてられにけり。

この名高い牛飼いの賽王丸は、もとは太秦殿に仕えていた、

この高名かうみょう賽王丸さいわうまるは、太秦殿うずまさどのおとこ

御用達の牛飼いであるぞ。

れうおん牛飼うしかひぞかし。

ところで、この太秦殿にお仕えしていた女房たちの名前ですが、

この太秦殿うずまさどのはべりける女房にょうぼうども、

一人は「ひささち」、一人は「ことつち」、

一人ひとりは「ひささち」、一人ひとりは「ことつち」、

一人は「はふはら」、もう一人は「をとうし」と付けられていたということです。

一人ひとりは「はふはら」。一人ひとりは「をとうし」とけられけり。

📚古文全文

いまがわ大臣殿おほいどの嵯峨さがへおはしけるに、有栖川ありすがわのわたりに、みずながれたるところにて、賽王丸さいわうまる御牛おんうしひたりければ、あがきのみず前板まえいたまで、ささとかかりけるを、為則ためのり御車みくるまのしりにさぶらひけるが、「希有けうわらはかな。かかるところにて、御牛おんうしをばふものか」とひたりければ、大臣殿おほいどの気色けしきしくなりて、「おのれ、くるまやらんこと賽王丸さいわうまるにまさりてえらじ。希有けうおとこなり」とて、御車みくるまかしらてられにけり。
この高名かうみょう賽王丸さいわうまるは、太秦殿うずまさどのおとこれうおん牛飼うしかひぞかし。この太秦殿うずまさどのはべりける女房にょうぼうども、一人ひとりは「ひささち」、一人ひとりは「ことつち」、一人ひとりは「はふはら」。一人ひとりは「をとうし」とけられけり。