古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草108|寸陰惜しむ人なし。これよく知れるか、愚かなるか・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

一瞬の時間を惜しまず、無駄に過ごす愚かさを説く。死を意識することで「今」を大切にし、心を整え仏道修行に励むべきだという、時間に対する心構えを説いている。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

わずかな時間を大事にする人がいない。これは達観しているからだろうか、愚かなのだろうか。

寸陰すんいんしむひとなし。これよくれるか、おろかなるか。

 

愚かで怠惰な人のために答えるならば、一銭は軽いものだが、

おろかにしておこたひとのためにはば、一銭いっせんかろしといへども、

これを積み重ねれば、貧しい人が富める人になることができる。

これをかさぬれば、まずしきひとめるひととなす。

だからこそ、商人が一銭を惜しむ気持ちは、切実だ。

されば、商人あきびと一銭いっせんしむこころせつなり。

 

一瞬を気づくことはできないが、この一瞬が止まることなく過ぎていくことで、

刹那せつなおぼえずといへども、これをはこびてまざれば、

人生の終わりに、あっという間にたどり着く。

いのちふる、たちまちにいたる。

だから、仏道を修行する人は、遠い未来の年月を気に病むのではなく、

されば、道人だうにんは、とお日月じつげつしむべからず。

ただ「今、この一瞬」が空しく過ぎていくことを惜しむべきなのである。

ただいま一念いちねん、むなしくぐることをしむべし。

 

もし、誰かがやってきて「あなたの命は、明日必ず尽きます」

もし、ひとたりて、「わがいのち明日あすかならうしなはるべし」

と告げられたとしよう。その人は、今日一日が暮れるまでの間、

らせたらんに、今日けふるる

いったい何を頼りとし、何をして過ごすだろうか。

なにごとをかたのみ、なにごとをかいとなままん。

私たちが生きているこの「今日」という日は、

われらがける今日けふ

その一日と何か違いがあるだろうか。

なんぞその時節じせつことらん。

 

一日のうちで、食事、排泄、睡眠、会話、移動といった、

一日いちにちのうちに、飲食おんじき便利べんり睡眠すいめん言語ごんご行歩ぎやうぶ

やむを得ないことに、多くの時間を費やしている。

やむことをずして、おおくのときうしなふ。

その残された、わずかな時間の中でさえ、

そのあまりのいとま、いくばくならぬうちに、

無益なことをし、無益なことを話し、

無益むやくのことをなし、無益むやくのことをひ、

無益なことを考えて、時間を過ごすだけではなく、

無益むやくのことを思惟しゆいして、ときうつすのみならず、

無益に一日を過ごし、一月を経過し、一生を終えてしまう。

し、つきをわたりて、一生いっしゃうおくる。

この上なく愚かだ。

もつともおろかなり。

 

中国の詩人である謝霊運は、法戯経の翻訳を行う才人であったが、

謝霊運しゃれいうん法華ほっけ筆受ひつじゅなりしかども、

その心は常に立身出世に向いていたため、

心常こころつね風雲ふううんおもひをかんぜしかば、

高僧の慧遠は、彼が自身の修行の会に加わることを許さなかったという。

恵遠えおん白蓮びゃくれんまじはりをゆるさざりき。

 

少しの間でも寸暇を惜しむことが無くなれば、死んでいるのと同じである。

しばらくもこれなきとき死人しびとおなじ。

時間を惜しんで、一体何をすべきなのかと言えば、

光陰くゎういんなんのためにかしむとならば、

心の中に心配事がなく、俗世の雑用に追われない状態になって、

うち思慮しりょなく、ほか世事せじなくして、

世俗を捨てたい人は捨て、修行したい人は修行しろ」ということである。

まんひとみ、しゅせんひとしゅせよとなり。

📚古文全文

寸陰すんいんしむひとなし。これよくれるか、おろかなるか。
おろかにしておこたひとのためにはば、一銭いっせんかろしといへども、これをかさぬれば、まずしきひとめるひととなす。されば、商人あきびと一銭いっせんしむこころせつなり。
刹那せつなおぼえずといへども、これをはこびてまざれば、いのちふる、たちまちにいたる。されば、道人だうにんは、とお日月じつげつしむべからず。ただいま一念いちねん、むなしくぐることをしむべし。もし、ひとたりて、「わがいのち明日あすかならうしなはるべし」とらせたらんに、今日けふるるなにごとをかたのみ、なにごとをかいとなままん。われらがける今日けふなんぞその時節じせつことらん。
一日いちにちのうちに、飲食おんじき便利べんり睡眠すいめん言語ごんご行歩ぎやうぶ、やむことをずして、おおくのときうしなふ。そのあまりのいとま、いくばくならぬうちに、無益むやくのことをなし、無益むやくのことをひ、無益むやくのことを思惟しゆいして、ときうつすのみならず、し、つきをわたりて、一生いっしゃうおくる。もつともおろかなり。
謝霊運しゃれいうん法華ほっけ筆受ひつじゅなりしかども、心常こころつね風雲ふううんおもひをかんぜしかば、恵遠えおん白蓮びゃくれんまじはりをゆるさざりき。
しばらくもこれなきとき死人しびとおなじ。光陰くゎういんなんのためにかしむとならば、うち思慮しりょなく、ほか世事せじなくして、まんひとみ、しゅせんひとしゅせよとなり。