徒然草102|尹大納言光忠入道、追儺の上卿を勤められけるに・・・
真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
儀式では、高位の者も実務に詳しい下位の者に助けられる。身分に関わらず実務に精通している者に一目置かなければならないという話。

🌙現代語対訳
尹大納言光忠入道という方が、宮中で行われる鬼払いの儀式(追儺)の責任者を務められた時のことです。
儀式の手順について洞院右大臣殿にお伺いを立てたところ、
洞院右大臣殿に次第を申し請けられければ、
「又五郎という男に教わる以外に良い方法はないでしょう」とおっしゃいました。
「又五郎男を師とするより外の才覚候はじ」とぞのたまひける。
その又五郎というのは、年老いた宮殿の門番で、
かの又五郎は、老いたる衛士の、
儀式の実務に大変詳しい者だったのでした。
よく公事になれたる者にてぞありける。
また、近衛殿という身分の高い方が、儀式の席にお着きになった際、
近衛殿、着陣し給ひける時、
軾(しき、膝の下に敷く敷物)を忘れて、外記(げき、書記役の役人)をお呼びになると、
軾を忘れて、外記を召されければ、
火の番をして控えていた者が、
火焚きて候ひけるが、
「まずは軾(しき)をお呼び寄せになってはいかがでしょうか」と、そっとつぶやいたのです。
「まづ、軾を召さるべくや候らん」と忍びやかにつぶやきける。
大変趣深いことです。
いとをかしかりけり。
📚古文全文
尹大納言光忠入道、追儺の上卿を勤められけるに、洞院右大臣殿に次第を申し請けられければ、「又五郎男を師とするより外の才覚候はじ」とぞのたまひける。かの又五郎は、老いたる衛士の、よく公事になれたる者にてぞありける。
近衛殿、着陣し給ひける時、軾を忘れて、外記を召されければ、火焚きて候ひけるが、「まづ、軾を召さるべくや候らん」と忍びやかにつぶやきける。いとをかしかりけり。