真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
『一言芳談』から遁世者の心得を引用。迷ったら行動せず、物を一切持たず、俗事を気にかけないのが、仏道を願う者の理想の姿であると説く。
🌙現代語対訳
尊い聖人が言い残された言葉を書き付けた、
尊き聖の言ひ置けることを書き付けて、
『一言芳談』という名の書物を読みました。
一言芳談とかや名付けたる草子を見侍りしに、
その中に、特に私の心にかなった言葉がありました。
心にあひて思えしことども。
「これを、やろうか、やるまいか」と迷うようなことは、
「しやせまし、せずやあらまし」と思ふことは、
だいたいは、やらない方が良い。
おほやうは、せぬはよき也。
来世での往生を願う者は、
後世を思はん者は、
ぬかみそを入れる壺一つでも、持つべきではない。
糂汰瓶一も持つまじきことなり。
お経やご本尊に至るまで、
持経・本尊に至るまで、
立派な物を持つのは、感心できないことだ。
良き物を持つ、よしなきことなり。
俗世を捨てた人は、何もなくても不自由しないように工夫して暮らす、
遁世者は、なきにことかけぬやうをはからひて過ぐる、
というのが理想的なあり方である。
最上のやうにてあるなり。
身分の高い者は、低い者のようになり、智恵のある者は、愚か者のようになり、
上臈は下臈になり、智者は愚者になり、
裕福な者は、貧しい者のようになり、才能のある者は、無能のようになるべきである。
徳人は貧になり、能ある人は無能になるべきなり。
仏道を願うというのは、何か特別なことではない。
仏道を願ふといふは、別のことなし。
ゆとりがある身となって、
暇ある身になりて、
世の中のことを気にかけないようにすることを第一の道とするのである。
世の事を心にかけぬを第一の道とす。
この他にも心に残った言葉はあったが、忘れた。
このほかもありしことども、覚えず。
📚古文全文
尊き聖の言ひ置けることを書き付けて、一言芳談とかや名付けたる草子を見侍りしに、心にあひて思えしことども。「しやせまし、せずやあらまし」と思ふことは、おほやうは、せぬはよき也。後世を思はん者は、糂汰瓶一も持つまじきことなり。持経・本尊に至るまで、良き物を持つ、よしなきことなり。遁世者は、なきにことかけぬやうをはからひて過ぐる、最上のやうにてあるなり。上臈は下臈になり、智者は愚者になり、徳人は貧になり、能ある人は無能になるべきなり。仏道を願ふといふは、別のことなし。暇ある身になりて、世の事を心にかけぬを第一の道とす。このほかもありしことども、覚えず。