真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
宮中の音楽会で大臣の琵琶の部品が取れるも、持参の糊で修理し事なきを得た。後に謎の女性がそれを一度外し元に戻したという、機転と不思議な逸話。
琵琶の管理担当者が応急修理の状況を確認しただけだと思います。
🌙現代語対訳

元応年間(1319-1321)に宮中の清暑堂で開かれた演奏会で
元応の清暑堂の御遊に、
有名な琵琶「玄上」が盗難で失われていた頃で、
玄上は失せにしころ、
菊亭大臣(琵琶の名手、藤原兼季)が、代わりに牧馬という琵琶をお弾きになりました。
菊亭大臣、牧馬を弾じ給ひけるに、
座に着き、まず楽器の柱を確かめられると、
座に着きて、まづ、柱を探られたりければ、
一つが取れてしまいました。
一つ落ちにけり。
大臣は懐に続飯(米粒で作った糊)をお持ちで、
御懐にそくひを持ち給ひたるにて、
それを使って、お付けになったので、
付けられにければ、
神へのお供え物が運ばれてくる頃にはすっかり乾き、
神供の参るほどによく干て、
何事もなかったありませんでした。
ことゆゑなかりけり。
どういう意図があったのか分かりませんが、
いかなる意趣かありけん、
見物をしていた、衣をかぶって顔を隠した女性が、
物見ける衣かづきの、
近寄ってその柱を外し、
寄りて放ちて、
また元通りに置いていったのだ、ということです。
もとのやうに置きたりけるとぞ。
📚古文全文
元応の清暑堂の御遊に、玄上は失せにしころ、菊亭大臣、牧馬を弾じ給ひけるに、座に着きて、まづ、柱を探られたりければ、一つ落ちにけり。
御懐にそくひを持ち給ひたるにて、付けられにければ、神供の参るほどによく干て、ことゆゑなかりけり。
いかなる意趣かありけん、物見ける衣かづきの、寄りて放ちて、もとのやうに置きたりけるとぞ。