真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
⛅ポイント
大根を薬と信じ食べた押領使が、敵襲の際、大根の化身に助けられた。何事も深く信じれば徳があるという話。

🌙現代語対訳
九州の筑紫に、誰それという押領使(治安維持の隊長)がいました。
筑紫に、なにがしの押領使などいふやうなる者のありけるが、
この人は、大根のことを「万病に効く、素晴らしい薬だ」と信じて、
土大根を、「よろづにいみじき薬」とて、
毎朝2本ずつ焼いて食べることを、長年続けていました。
朝ごとに二つづつ焼きて食ひけること、年久しくなりぬ。
ある時、館に人が少ない隙を狙って、
ある時、館の内に、人も無かりける隙をはかりて、
敵が襲撃し、屋敷を囲んで攻めてきました。
敵襲ひ来たりて、囲み責めけるに、
すると、館の中から二人の武者が現れ、
館の内に、兵二人出で来て、
命も惜しまずに戦い、敵を一人残らず追い返してしまいました。
命を惜しまず戦ひて、みな追ひ返してげり。
押領使は、大変不思議に思って、
いと不思議に思えて、
「これまでお屋敷でお見かけしたことのない方々ですが、
「日ごろここにものし給ふとも見ぬ人々の、
このように戦ってくださったのは、どのようなお方なですか」と尋ねました。
かく戦ひし給ふは、いかなる人ぞ」と問ひければ、
「あなたが長年、頼りにして、毎朝召し上がってきた、あの大根でございます」
「年ごろたのみて、朝な朝な召しつる土大根らに候ふ」
と答えて、姿を消してしまいました。
と言ひて失せにけり。
何事も、深く信じきれば、このように不思議なご利益があるものなのですね。
深く信をいたしぬれば、かかる徳もありけるにこそ。
📚古文全文
筑紫に、なにがしの押領使などいふやうなる者のありけるが、土大根を、「よろづにいみじき薬」とて、朝ごとに二つづつ焼きて食ひけること、年久しくなりぬ。
ある時、館の内に、人も無かりける隙をはかりて、敵襲ひ来たりて、囲み責めけるに、館の内に、兵二人出で来て、命を惜しまず戦ひて、みな追ひ返してげり。
いと不思議に思えて、「日ごろここにものし給ふとも見ぬ人々の、かく戦ひし給ふは、いかなる人ぞ」と問ひければ、「年ごろたのみて、朝な朝な召しつる土大根らに候ふ」と言ひて失せにけり。
深く信をいたしぬれば、かかる徳もありけるにこそ。