真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
ポイント
鷹匠の武勝は、関白の命に対し独自の作法で応えた。花のない枝に鳥を付ける詳細な献上の作法を通じて、兼好の美意識を表現しています。鷹匠の武勝が作法に通じ、美を体現していることを示すことによって、もののわからない関白を軽くディスる感じです。

🌙現代語対訳
岡本関白殿が、見事に咲いた紅梅の枝に、鳥(キジ)をひとつがいを添えて
岡本関白殿、盛りなる紅梅の枝に、鳥一双をそへて、
この枝に付けて献上するようにと、
この枝に付けて参らすべきよし、
鷹匠である下毛野武勝に命じられました。
御鷹飼下毛野武勝に仰せられたりけるに、
「花が咲いている枝に鳥を付ける方法は知りません。
「花に鳥付くるすべ、知り候はず。
また、一本の枝に二羽の鳥を付ける方法も、知りません」と申し上げました。
一枝に二つ付くることも存知候はず」と申しければ、
関白殿は、お食事を司る役所などに尋ね、様々な人にお問わせになりましたが、
膳部に尋ねられ、人々に問はせ給ひて、
再び武勝に、「それならば、お前が良いと思うやり方で、
また武勝に、「さらば、おのれが思はんやうに
鳥を付けて献上せよ」と仰せになりました。
付けて参らせよ」と仰せられたりければ、
花の咲いていない梅の枝に、鳥一羽を付けて献上しました。
花もなき梅の枝に、一つを付けて参らせけり。
武勝が語ったことには、
武勝が申し侍りしは、
「雑木の枝、梅の枝、梅の場合は、つぼみか、花が散った後の枝を用います。
「柴の枝、梅の枝、つぼみたると散りたるとに付く。
五葉松なども使います。枝の長さは七尺(2.12m)、あるいは六尺(1.82m)。
五葉などにも付く。枝の長さ七尺、あるいは六尺。
枝には返し刃で深さ五分(1.5cm)の切り込みを入れます。枝の真ん中あたりに鳥を付けます。
返し刀五分に切る。枝の半ばに鳥を付く。
鳥を縛り付けると、脚を乗せる枝を設けます。
付くる枝、踏まする枝あり。
裂いていない『しじら藤』のツタを使い、二箇所を結びます。
しじら藤の割らぬにて、二ところ付くべし。
ツタの先は、鷹の火打ち羽(翼の一番先端に位置する長く強い羽)の長さに揃えて切り、牛の角のように曲げます。
藤の先は、ひうち羽の長に比べて切りて、牛の角のやうにたわむべし。
献上するのは、初雪の朝で、枝を肩に担ぎ、中門から堂々と入ります。
初雪の朝、枝を肩にかけて、中門よりふるまひて参る。
軒下や階下まで続く敷石の上を伝って、雪に足跡をつけないように進み、
大砌の石を伝ひて、雪に跡を付けず、
鳥の綿毛を少しだけむしって散らし、御所の廊下の欄干に枝を立てかけます。
あまおほひの毛を少しかなぐり散らして、二棟の御所の高欄に寄せかく。
ご褒美をいただいたら、それを肩にかけ、拝礼して退出します。
禄を出ださるれば、肩にかけて、拝して退く。
初雪といっても、沓の先が隠れないほどの僅かな雪の時には、献上しません。
初雪といへども、沓のはなの隠れぬほどの雪には参らず。
綿毛を散らすのは、鷹が獲物の腰のあたりの柔らかい毛をむしる習性があるためで、
あまおほひの毛を散らすことは、鷹はよわ腰を取ることなれば、
主君の鷹が獲った鳥ですよということを示す印なのです」といいました。
御鷹の取りたるよしなるべし」と申しき。
花が咲いている枝に鳥を付けないというのは、どういう理由からなのでしょうか。
花に鳥付けずとは、いかなるゆゑにかありけん。
九月ごろに、梅の造花の枝に雉を付けて、
長月ばかりに、梅の作り枝に雉を付けて、
「あなたのためなら、季節外れのこの花を折りましょう」という歌を詠んだ話が、
「君がためにと折る花は時しも分かぬ」といへること、
伊勢物語にはありました。造花であれば、問題ないということなのでしょうか。
伊勢物語に見えたり。作り花は苦しからぬにや。
📚古文全文
岡本関白殿、盛りなる紅梅の枝に、鳥一双をそへて、この枝に付けて参らすべきよし、御鷹飼下毛野武勝に仰せられたりけるに、「花に鳥付くるすべ、知り候はず。一枝に二つ付くることも存知候はず」と申しければ、膳部に尋ねられ、人々に問はせ給ひて、また武勝に、「さらば、おのれが思はんやうに付けて参らせよ」と仰せられたりければ、花もなき梅の枝に、一つを付けて参らせけり。
武勝が申し侍りしは、「柴の枝、梅の枝、つぼみたると散りたるとに付く。五葉などにも付く。枝の長さ七尺、あるいは六尺。返し刀五分に切る。枝の半ばに鳥を付く。付くる枝、踏まする枝あり。しじら藤の割らぬにて、二ところ付くべし。藤の先は、ひうち羽の長に比べて切りて、牛の角のやうにたわむべし。初雪の朝、枝を肩にかけて、中門よりふるまひて参る。大砌の石を伝ひて、雪に跡を付けず、あまおほひの毛を少しかなぐり散らして、二棟の御所の高欄に寄せかく。禄を出ださるれば、肩にかけて、拝して退く。初雪といへども、沓のはなの隠れぬほどの雪には参らず。あまおほひの毛を散らすことは、鷹はよわ腰を取ることなれば、御鷹の取りたるよしなるべし」と申しき。
花に鳥付けずとは、いかなるゆゑにかありけん。長月ばかりに、梅の作り枝に雉を付けて、「君がためにと折る花は時しも分かぬ」といへること、伊勢物語に見えたり。作り花は苦しからぬにや。