真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
院の前で食事をした光親卿は、お膳を御簾に返した。無作法だと女房は非難するが、院はそれを正式な作法だと感心したという。

🌙現代語対訳
光親卿が、後鳥羽院主催の最勝講の責任者としてお仕えしていたところ、
光親卿、院の最勝講奉行してさぶらひけるを、
後鳥羽院の側に招かれて、食膳を出してもらって、いただくことになった。
御前へ召されて、供御を出だされて、食はせられけり。
さて、食べ散らかしたお膳を、
さて、食ひ散らしたる衝重を、
御簾(貴人の席の格式の高いすだれ)の中へ差し入れて、退出してしまった。
御簾の中へさし入れて、まかり出でにけり。
女官は、「まあ汚い。誰に取れというのか」などと話していると、
女房、「あなきたな。誰にとれとてか」など申し合はれければ、
院は「正式な作法にのっとった振る舞いで、素晴らしいことだ」と、
「有職の振舞、やんごとなきことなり」と、
繰り返し感心なさったということです。
かへすがへす感ぜさせ給けるとぞ。
📚古文全文
光親卿、院の最勝講奉行してさぶらひけるを、御前へ召されて、供御を出だされて、食はせられけり。さて、食ひ散らしたる衝重を、御簾の中へさし入れて、まかり出でにけり。
女房、「あなきたな。誰にとれとてか」など申し合はれければ、「有職の振舞、やんごとなきことなり」と、かへすがへす感ぜさせ給けるとぞ。