真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
短気な僧正が、あだ名を嫌って行動するたび、かえって新しいあだ名をつけられる滑稽な話。

🌙現代語対訳
藤原公世の二位という方の兄に、良覚僧正という方がいましたが、
公世の二位のせうとに、良覚僧正と聞こえしは、
たいそう短気な人でした。
極めて腹あしき人なりけり。
お寺のそばに、大きな榎(エノキ)の木があったので、
坊の傍らに、大きなる榎の木のありければ、
人々は「榎木僧正」と呼んでいました。
人、「榎木僧正」とぞ言ひける。
「このあだ名は、よろしくない」と言って、その木を切ってしまいました。
「この名、しかるべからず」とて、かの木を切られにけり。
その切り株が残ったので、「切り株の僧正」と言うようになりました。
その根のありければ、「きりくひの僧正」と言ひけり。
ますます腹を立てて、切り株を掘って捨てたところ、
いよいよ腹立ちて、きりくひを掘り捨てたりければ、
その跡が、大きな堀になってしまったので、
その跡、大きなる堀にてありければ、
「堀池僧正」と言うようになったということです。
堀池僧正とぞ言ひける。
📚古文全文
公世の二位のせうとに、良覚僧正と聞こえしは、極めて腹あしき人なりけり。
坊の傍らに、大きなる榎の木のありければ、人、「榎木僧正」とぞ言ひける。
「この名、しかるべからず」とて、かの木を切られにけり。その根のありければ、「きりくひの僧正」と言ひけり。
いよいよ腹立ちて、きりくひを掘り捨てたりければ、その跡、大きなる堀にてありければ、堀池僧正とぞ言ひける。