真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
秋の夜、笛を吹く若者の後を追い、山里で見た仏事の様子と、美しい自然の情景を描く。

🌙現代語対訳
粗末な竹の編み戸の中から、とても若い男性が、
あやしの竹の編戸の内より、いと若き男の、
月明かりで、色合いは、はっきりしないが、
月影に色あひさだかならねど、
艶のある狩衣(略装の上着)に濃い色の指貫(袴、プリーツスカート)をはき、
つややかなる狩衣に、濃き指貫、
たいそう由緒ある様子で、
いとゆゑづきたるさまにて、
小さな少年一人を引き連れて
ささやかなる童一人を具して、
遥かに続く田んぼの中の細い道を、
遥かなる田の中の細道を、
稲の葉の露に濡れながら分け入って行き、
稲葉の露にそぼちつつ分け行くほど、
何とも言えないほど巧みに笛を吹いているが、
笛をえならず吹きすさびたる、
「素晴らしいと、聞いてわかる人もいないだろう」と思うと、
「あはれと、聞き知るべき人もあらじ」と思ふに、
どこへ行くのか知りたくなって、見送りながら行くと、
行かん方知らまほしくて、見送りつつ行けば、
笛を吹くのをやめ、山の麓にある立派な門の中に入っていった。
笛を吹きやみて、山の際に惣門のある内に入りぬ。
牛車用の台に、置いてある牛車が見えるのも、都会で見るより印象的で、
榻に立てたる車の見ゆるも、都よりは目とまる心地して、
使用人に聞くと、「某宮様がご滞在中で、
下人に問へば、「しかしかの宮のおはしますころにて、
仏事などがあるのでしょう」と言う。
御仏事など候ふにや」と言ふ。
お堂の方には、僧侶たちが集まっていた。
御堂の方に、法師ども参りたり。
夜の冷たい風に誘われてくる、全体に広がる香の香りも、。
夜寒の風にさそはれ来る、そら薫物の匂ひも、
身にしみるようだ
身にしむ心地す。
寝殿からお堂の廊下へ行き来する女官の、残り香にも気を使っていて、
寝殿より御堂の廊に通ふ女房の、追風用意など、
人目がない山里とは思えないほど、行き届いていた。
人目なき山里ともいはず、心づかひしたり。
自然のままに茂った秋の野原は、置き場の無いほど降りた露に埋もれ、
心のままに茂れる秋の野らは、置きあまる露に埋もて、
虫の鳴き声は何かを訴えるようで、庭の小川のせせらぎは穏やかだ。
虫の音かごとがましく、遣水の音のどやかなり。
都の空より雲の動きが速く感じられ、
都の空よりは雲の往来も早き心地して、
月の晴れ曇りもめまぐるしい。
月の晴れ曇ること定めがたし。

📚古文全文
あやしの竹の編戸の内より、いと若き男の、月影に色あひさだかならねど、つややかなる狩衣に、濃き指貫、いとゆゑづきたるさまにて、ささやかなる童一人を具して、遥かなる田の中の細道を、稲葉の露にそぼちつつ分け行くほど、笛をえならず吹きすさびたる、「あはれと、聞き知るべき人もあらじ」と思ふに、行かん方知らまほしくて、見送りつつ行けば、笛を吹きやみて、山の際に惣門のある内に入りぬ。
榻に立てたる車の見ゆるも、都よりは目とまる心地して、下人に問へば、「しかしかの宮のおはしますころにて、御仏事など候ふにや」と言ふ。御堂の方に、法師ども参りたり。
夜寒の風にさそはれ来る、そら薫物の匂ひも、身にしむ心地す。寝殿より御堂の廊に通ふ女房の、追風用意など、人目なき山里ともいはず、心づかひしたり。
心のままに茂れる秋の野らは、置きあまる露に埋もて、虫の音かごとがましく、遣水の音のどやかなり。都の空よりは雲の往来も早き心地して、月の晴れ曇ること定めがたし。