真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
亡き人の手跡や遺品に触れ、過ぎ去った日々を恋しく思う。持ち主を失っても変わらぬ物に、どうしようもない悲しさを感じる。

🌙現代語対訳
静かに物思いにふけっていると、何事につけても、過ぎ去った日々への恋しさだけが、
静かに思へば、よろづに過ぎにしかたの恋しさのみぞ、
どうしようもなく込み上げてきます。
せんかたなき。
夜、あたりが寝静まった後、長い夜の退屈しのぎに、
人しづまりて後、長き夜のすさびに、
どうということのない、身の回り品をとりだして、
何となき具足とりしたため、
「取っておく必要もないだろう」と思う書き損じの紙などを、破り捨てている最中に、
「残し置かじ」と思ふ反古など、破り捨つる中に、
今は亡き人が練習で書いた文字や、気まぐれに描いた絵などを
亡き人の手習ひ、絵描きすさびたる、
見つけることがあり、まるで当時に戻ったような、気持ちになるのです。
見出でたるこそ、ただその折の心地すれ。
今も生きている人からの手紙でさえ、長い時間が経ってから、
このごろある人の文だに、久しくなりて、
「どういう時の、いつの年だったか」
「いかなる折、いつの年なりけん」
などと思い返すのは、切ないものです。
と思ふは、あはれなるぞかし。
故人が使い慣れた道具なども、心を持っていませんが、
手なれし具足なども、心もなくて、
昔のままの姿でそこにあり続けます。悲しいことです。
変はらず久しき。いとかなし。
📚古文全文
静かに思へば、よろづに過ぎにしかたの恋しさのみぞ、せんかたなき。
人しづまりて後、長き夜のすさびに、何となき具足とりしたため、「残し置かじ」と思ふ反古など、破り捨つる中に、亡き人の手習ひ、絵描きすさびたる、見出でたるこそ、ただその折の心地すれ。
このごろある人の文だに、久しくなりて、「いかなる折、いつの年なりけん」と思ふは、あはれなるぞかし。手なれし具足なども、心もなくて、変らず久しき。いとかなし。