真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
人の心の移ろいやすさは、亡き人との別れよりも悲しい。親しかった人との関係が失われてゆく寂しさを、古歌を引用しながら表現しています。

🌙現代語対訳
人の心は、風が吹くやいなや、色褪せてしまう花のようです。
風も吹きあへずうつろふ人の心の花に、
親しく過ごした年月を思うと、
慣れにし年月を思へば、
心に染みた言葉の一つ一つは忘れられないのに、
あはれと聞きし言の葉ごとに忘れぬものから、
自分とは無関係な人になっていってしまうという現実。
わが世の外になりゆく習ひこそ、
亡くなった人との別れよりも、もっと悲しいことのように思えます。
亡き人の別れよりもまさりて、悲しきものなれ。
だからこそ、白い糸が様々な色に染まってしまうことに例えて悲しんだり、
されば、白き糸の染まんことを悲しび、
道がいくつにも分かれていることに例えて嘆いたりした人もいたのでしょう。
路のちまたの分かれんことを歎く人もありけんかし。
堀川天皇のとき16名の歌人が詠んだ百首の和歌の中に、こんな歌があります。
堀川院の百首の歌の中に、
昔、愛しく思っていた人の家の垣根は、荒れ果ててしまった。
昔見し妹が垣根は荒れにけり
雑草であるチガヤに混じって、スミレが咲いているだけだ。
つばなまじりの菫のみして
なんとも寂しい情景です。
さびしき気色、
作者もこのような経験をしたのでしょう。
さること侍りけん。
📚古文全文
風も吹きあへずうつろふ人の心の花に、慣れにし年月を思へば、あはれと聞きし言の葉ごとに忘れぬものから、わが世の外になりゆく習ひこそ、亡き人の別れよりもまさりて、悲しきものなれ。
されば、白き糸の染まんことを悲しび、路のちまたの分かれんことを歎く人もありけんかし。
堀川院の百首の歌の中に、
昔見し妹が垣根は荒れにけりつばなまじりの菫のみして
さびしき気色、さること侍りけん。