真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
山里の静寂な庵の風情に感心したが、ただ一本の柑子ミカンの木が厳重に囲われているのを見て興ざめした。俗世を離れることの難しさを描いている。

🌙現代語対訳
旧暦10月(新暦10月下旬から12月上旬)のころ、京都の栗栖野という場所を通り過ぎ、
神無月のころ、栗栖野といふ所を過ぎて、
ある山里に人を訪ねて入っていったことがありました。
ある山里に尋ね入ること侍りしに、
遥か先まで続く苔の生えた細い道を踏み分けていくと、
遥かなる苔の細道を踏み分けて、
寂しくひっそりとたたずむ小さな家がありました。
心細く住みなしたる庵あり。
落ち葉に埋もれた水を通す樋(とい)からしたたる水の音以外、
木の葉に埋もるる、懸樋のしづくならでは、
まったく音を立てるものはありません。
つゆ音なふものなし。
仏様にお供えをする棚には、菊や紅葉の枝が手折って散らしてあり、
閼伽棚に、菊・紅葉など折り散らしたる、
これを見て、やはり誰かが住んでいるのだなと分かりました。
さすがに住む人のあればなるべし。
「世俗を離れて、こんなにも静かに暮らしていけるものなのだなあ」と感心しながら眺めていると、
「かくてもあられけるよ」と、あはれに見るほどに、
向こうの庭に、大きな柑子蜜柑 (こうじみかん)の木で、
かなたの庭に、大きなる柑子の木の、
枝がしなるほどたくさんの実をつけていました。
枝もたわわになりたるが、
ところが、その木の周りだけが頑丈な柵で厳重に囲われているのです。
まはりを厳しく囲ひたりしこそ、
それを見た途端、私は少し興ざめしてしまい、
すこしことさめて、
「いっそこの木さえなければ、もっと趣深かっただろうに」と思ったことでした。
「この木、無からましかば」と思えしか。
📚古文全文
神無月のころ、栗栖野といふ所を過ぎて、ある山里に尋ね入ること侍りしに、遥かなる苔の細道を踏み分けて、心細く住みなしたる庵あり。
木の葉に埋もるる、懸樋のしづくならでは、つゆ音なふものなし。閼伽棚に、菊・紅葉など折り散らしたる、さすがに住む人のあればなるべし。
「かくてもあられけるよ」と、あはれに見るほどに、かなたの庭に、大きなる柑子の木の、枝もたわわになりたるが、まはりを厳しく囲ひたりしこそ、すこしことさめて、「この木、無からましかば」と思えしか。