真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
住まいは人柄を表し、自然で奥ゆかしい佇まいが良い。鳶よけの縄の例から、物事の背景を慮ることの重要性を説いている。

🌙現代語対訳
住まいが住む人に似つかわしく、理想的な佇まいであることは、
家居のつきづきしく、あらまほしきこそ、
この世が仮の宿だと分かってはいても、興味深く、趣のあるものです。
仮の宿りとは思へど、興あるものなれ。
品の良い人が、ゆったりと暮らしている家は、
良き人の、のどやかに住なしたる所は、
差し込む月の光さえ、ひときわ心に染みるように感じられます。
さし入りたる月の色も、ひときはしみじみと見ゆるぞかし。
現代風で、華美なわけではないけれど、木々には歴史が感じられ、
今めかしく、きららかならねど、木立もの古りて、
自然に生えた庭の草にも風情があり、
わざとならぬ庭の草も心あるさまに、
縁側や垣根の配置も趣深く、
簀子・透垣のたよりをかしく、
室内の調度品も古風で、落ち着いていることこそ、奥ゆかしく思えるのです。
うちある調度も昔覚えて、やすらかなるこそ、心にくしと見ゆれ。
大勢の職人が、技術の限りを尽くして飾り立て、
多くの匠の、心を尽して磨き立て、
中国や日本の、珍しく、すばらしい調度品をずらりと並べ、
唐の大和の、めづらしく、えならぬ調度ども並べ置き、
庭の植木まで、不自然に作り込んでいるような家は、
前栽の草木まで、心のままならず作りなせるは、
見ているだけで息が詰まり、興ざめしてしまいます。
見る目も苦しく、いとわびし。
一目見ただけで、「長く住めるものだろうか。
「さてもやは、長らへ住むべき。
どうせすぐに火事で煙になってしまうだろう」と思われてなりません。
また、時のまの煙ともなりなん」とぞ、うち見るより思はるる。
だいたい、住まいの様子を見れば、その主の人柄も推測できるものです。
おほかたは、家居にこそ、ことざまは推し量らるれ。
後徳大寺大臣が「屋根に鳶を止まらせまい」と縄を張ったのを、
後徳大寺大臣の、「寝殿に鳶居させじ」とて、縄を張られたりけるを、
西行法師が見て、「鳶が止まったからとて何の問題があろうか。
西行が見て、「鳶の居たらんは、何かは苦しかるべき。
この方の心の狭さは、その程度か」と感じ、
この殿の御心、さばかりにこそ」とて、
それ以来、大臣のもとへは顔を出さなくなったと聞きましたが、
その後は参らざりけると聞き侍るに、
綾小路宮のお屋敷の屋根に、
綾小路宮のおはします小坂殿の棟に、
いつぞや縄が張られているのを見かけたので、
いつぞや縄を引かれたりしかば、
この話を思い出したのですが、
かの例思ひ出でられ侍りしに、
そういえば、「カラスが群れて池のカエルを捕ってしまうのを、
まことや、「烏のむれ居て、池の蛙を捕りければ、
宮様がご覧になってお可哀想に思われたからです」と人が教えてくれましたので、
御覧じ悲しませ給ひてなん」と人の語りしこそ、
「なるほど、素晴らしいお心遣いだ」と感心しました。
「さては、いみじくこそ」と覚えしか。
初めの話の後徳大寺大臣にも、何か深い理由があったかもしれません。
徳大寺にも、いかなるゆゑか侍りけん。

📚古文全文
家居のつきづきしく、あらまほしきこそ、仮の宿りとは思へど、興あるものなれ。
良き人の、のどやかに住なしたる所は、さし入りたる月の色も、ひときはしみじみと見ゆるぞかし。今めかしく、きららかならねど、木立もの古りて、わざとならぬ庭の草も心あるさまに、簀子・透垣のたよりをかしく、うちある調度も昔覚えて、やすらかなるこそ、心にくしと見ゆれ。
多くの匠の、心を尽して磨き立て、唐の大和の、めづらしく、えならぬ調度ども並べ置き、前栽の草木まで、心のままならず作りなせるは、見る目も苦しく、いとわびし。「さてもやは、長らへ住むべき。また、時のまの煙ともなりなん」とぞ、うち見るより思はるる。おほかたは、家居にこそ、ことざまは推し量らるれ。
後徳大寺大臣の、「寝殿に鳶居させじ」とて、縄を張られたりけるを、西行が見て、「鳶の居たらんは、何かは苦しかるべき。この殿の御心、さばかりにこそ」とて、その後は参らざりけると聞き侍るに、綾小路宮のおはします小坂殿の棟に、いつぞや縄を引かれたりしかば、かの例思ひ出でられ侍りしに、まことや、「烏のむれ居て、池の蛙を捕りければ、御覧じ悲しませ給ひてなん」と人の語りしこそ、「さては、いみじくこそ」と覚えしか。
徳大寺にも、いかなるゆゑか侍りけん。