真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。
💭ポイント
色恋の惑いは、老若男女誰もが断ち切れず最も強力。女性の髪が大象を繋ぐほどであり、何よりも慎むべき。

🌙現代語対訳
女性は髪が美しいと、特に人の目を引くようです。
女は髪のめでたからんこそ、人の目たつべかめれ。
その人の品性や気立てといったものは、
人のほど・心ばへは、
話し方や雰囲気、言葉遣いや立ち居振る舞いに自然と現れるものです。
もの言ひたるけはひにこそ、ものごしにも知らるれ。
何事につけても、ちょっとしたそぶりで男性の心を惑わせ、
ことにふれて、うちあるさまにも、人の心を惑はし、
また女性は、リラックスして眠ることもせず、自分の身体を大事にしようともせず、
すべて女の、うちとけたる寝も寝ず、「身を惜し」とも思ひたらず、
普通なら耐えられないようなことにもじっと耐え忍ぶことができるのは、
耐ゆべくもあらぬわざにもよく耐へ忍ぶは、
すべて恋の力によるものです。
ただ色を思ふがゆゑなり。
実に、この異性への執着心は、人間の本能に深く根ざしています。
まことに、愛着の道、その根深く、源遠し。
感覚から生まれる欲望は数多くありますが、どれも努力すれば断ち切れるでしょう。
六塵の楽欲多しといへども、みな厭離しつべし。
この中で、色恋の迷いだけは、断ち切ることができないのが、
その中に、ただかの惑ひの、一つ止めがたきのみぞ、
老いも若きも、賢者も愚者も、変わらないように見えます。
老たるも若きも、智あるも愚なるも、変る所なしと見ゆる。
だからこそ、「女性の髪を編んだ綱は大きな象をもつなぎとめ、
されば、女の髪筋をよれる綱には、大象もよく繋がれ、
女性が履いた下駄で作った笛の音には秋の鹿さえ必ず引き寄せられる」
女の履ける足駄にて作れる笛には、秋の鹿、必ず寄る
という言い伝えがあるのです。
とぞ言ひ伝へ侍る。
自分自身を戒め、最も恐れて慎まなければならないのは、この色恋の道なのです。
みづから戒めて、恐るべく、慎むべきは、この惑ひなり。

📚古文全文
女は髪のめでたからんこそ、人の目たつべかめれ。人のほど・心ばへは、もの言ひたるけはひにこそ、ものごしにも知らるれ。
ことにふれて、うちあるさまにも、人の心を惑はし、すべて女の、うちとけたる寝も寝ず、「身を惜し」とも思ひたらず、耐ゆべくもあらぬわざにもよく耐へ忍ぶは、ただ色を思ふがゆゑなり。
まことに、愛着の道、その根深く、源遠し。六塵の楽欲多しといへども、みな厭離しつべし。その中に、ただかの惑ひの、一つ止めがたきのみぞ、老たるも若きも、智あるも愚なるも、変る所なしと見ゆる。
されば、女の髪筋をよれる綱には、大象もよく繋がれ、女の履ける足駄にて作れる笛には、秋の鹿、必ず寄るとぞ言ひ伝へ侍る。みづから戒めて、恐るべく、慎むべきは、この惑ひなり。