古文で読みたい

古典を読みたい人が、古典にアクセスするための本です

徒然草009|女は髪のめでたからんこそ・・・

真の古典の魅力は、作者が紡いだ原文の中にこそ息づいています。「古文で読みたい徒然草シリーズ」で、現代語と古文を併読することで、古の言葉が今なお放つ光を確かめてください。

💭ポイント

色恋の惑いは、老若男女誰もが断ち切れず最も強力。女性の髪が大象を繋ぐほどであり、何よりも慎むべき。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース

🌙現代語対訳

女性は髪が美しいと、特に人の目を引くようです。

おんなかみのめでたからんこそ、ひとたつべかめれ。

その人の品性や気立てといったものは、

ひとのほど・こころばへは、

話し方や雰囲気、言葉遣いや立ち居振る舞いに自然と現れるものです。

ものひたるけはひにこそ、ものごしにもらるれ。

 

何事につけても、ちょっとしたそぶりで男性の心を惑わせ、

ことにふれて、うちあるさまにも、ひとこころまどはし、

また女性は、リラックスして眠ることもせず、自分の身体を大事にしようともせず、

すべておんなの、うちとけたるず、「し」ともおもひたらず、

普通なら耐えられないようなことにもじっと耐え忍ぶことができるのは、

ゆべくもあらぬわざにもよくしのぶは、

すべて恋の力によるものです。

ただいろおもふがゆゑなり。

 

実に、この異性への執着心は、人間の本能に深く根ざしています。

まことに、愛着あいぢゃくみち、そのふかく、みなもととおし。

感覚から生まれる欲望は数多くありますが、どれも努力すれば断ち切れるでしょう。

六塵ろくぢん楽欲ぎょうよくおおしといへども、みな厭離えんりしつべし。

この中で、色恋の迷いだけは、断ち切ることができないのが、

そのなかに、ただかのまどひの、ひとめがたきのみぞ、

老いも若きも、賢者も愚者も、変わらないように見えます。

たるもわかきも、あるもなるも、ところなしとゆる。

 

だからこそ、「女性の髪を編んだ綱は大きな象をもつなぎとめ、

されば、おんな髪筋かみすぢをよれるつなには、大象たいぞうもよくつながれ、

女性が履いた下駄で作った笛の音には秋の鹿さえ必ず引き寄せられる」

おんなける足駄あしだにてつくれるふえには、あき鹿しかかなら

という言い伝えがあるのです。

とぞつたはべる。

自分自身を戒め、最も恐れて慎まなければならないのは、この色恋の道なのです。

みづからいましめて、おそるべく、つつしむべきは、このまどひなり。

徒然草絵抄』(小泉吉永所蔵) 出典: 国書データベース



📚古文全文

おんなかみのめでたからんこそ、ひとたつべかめれ。ひとのほど・こころばへは、ものひたるけはひにこそ、ものごしにもらるれ。

ことにふれて、うちあるさまにも、ひとこころまどはし、すべておんなの、うちとけたるず、「し」ともおもひたらず、ゆべくもあらぬわざにもよくしのぶは、ただいろおもふがゆゑなり。

まことに、愛着あいぢゃくみち、そのふかく、みなもととおし。六塵ろくぢん楽欲ぎょうよくおおしといへども、みな厭離えんりしつべし。そのなかに、ただかのまどひの、ひとめがたきのみぞ、たるもわかきも、あるもなるも、ところなしとゆる。

されば、おんな髪筋かみすぢをよれるつなには、大象たいぞうもよくつながれ、おんなける足駄あしだにてつくれるふえには、あき鹿しかかならるとぞつたはべる。みづからいましめて、おそるべく、つつしむべきは、このまどひなり。